「うぅ…」

背中を覆う温もりが、小さく呻いた。

「十四郎さーん」
「あ?」
「気持ち悪いですー」
「そこで吐くなよ」
「へーい」

斎藤からこいつを取り返した帰り道、もう歩けないと道端にしゃがむなまえを仕方なくおぶったのだった。女の酔っ払いほど見苦しいものはないと思う。普段から見苦しい奴なら尚更。

「おら、着いたぞ。降りろ」

なまえの部屋の戸を足で開け、敷きっぱなしの布団にどさっと降ろした。降ろしたというか、落とした。カエルみたいな声を出して転がる姿はそれなりに面白かったが、相当酔いが回っているのか、反撃してくる気配はない。

「明日も仕事だろ。水持ってきてやるから早く寝ろ」

立ち上がろうとすると、背中に急に重みが乗っかってきた。ひっくり返ってたはずのなまえが背中に飛びついている。

「十四郎さん、おんぶー」
「重ぇよ!離れろ」
「おんぶー」

いやはや、ここまでたちが悪いとは。ここ数年彼氏無し女(俺の見立てだが)の実力を甘く見ていた。うっとおしい。
後ろから回った腕が喉仏を圧迫する。耐えられなくてそのまま後ろに倒れた。布団が敷いてあったからいいものの、大の男に潰されて大丈夫かこいつ…。退こうとするが、腕はまだ首に回ったままだ。
横になった俺の後ろからなまえが抱きついてる格好だ。なんだよこの状況。

「なまえちゃんー苦しいんだけど」
「うふふふふふ」
「てめぇ…」
「十四郎さん、背中広い」

首筋に吐息がかかる。背中に押し付けられた胸はあってないようなものだが、いかんせん布団の上だし、窓から射し込む月明かりは良い雰囲気を演出しやがるし、欲に訴えかけるには十分のシチュエーションだった。相手がこいつというのがなんとも情けない。

「とおしろうさん…?」

ごろ、と身体を反転させなまえと向かい合う。赤い顔で目をぱちくりさせる間抜け面に、苛立ちとは別のなにかが込み上げてきた。
そっと、脇腹に触れてみる。最初はくすぐったそうにしていたけど、段々と逃げるように後ずさり始めた。

「ん、やだ…だめ、」
「これで嫌なのかよ」

背中や腰に手を這わせて反応を楽しむ。いちいち大袈裟なほど肩を揺らすなまえに加虐心がむくむくと膨れ上がってくる。力の入らない手で押し返されても、煽られているとしか思えない。
堪らなくなって、剥き出しになった白い首筋に噛み付いた。酒の匂いに混じって香る甘い香りに目眩がしそうだ。思考がどろどろに溶けていく


「……なぁ、これってどこまでやっていいの?」
「んー?」

へらりと笑うなまえに腹が立って、もう一度首に噛み付いた。今度はさっきよりも強めに。

「あっ痛くしないで」
「っせぇよ、人の気も知らないで…」

余裕がないみたいで恥ずかしい。が、それもどうやらこちらだけではないようだ。真っ白な両腕が伸びてきて、いやにねっとりと首に絡みついた。

「十四郎さん、すごいやらしい顔してる」

初めて見るような顔をして、なまえは目を細めた。

「っは、お前に言われたくねぇよ」




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