メトロポリスジャック | ナノ

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真波くんは家に着いた頃だろうか。アドレス帳の真波山岳の項目は、もう何度も見たはずなのに、メールを送るときも電話を掛けるときも、いつも少しためらってしまう。返信を面倒に思うかもしれない、今話したくない気分だったらどうしよう、私はいつも不安だった。

「…もしもし」
「春岡さん?どうしたの」

気づかれないように小さく深呼吸した。

「今までごめんね。無理させて」

電話の向こうは時間が止まったように静かで、自分の声を一人きりで聞いてるような気分だった。
決心が揺らがないうちに、私は続けた。

「真波くん優しいから、私と付き合ってくれたんだと思うけど、もう無理しなくていいよ。日曜映画見れて楽しかった。今まで付き合ってくれてありがとう」

真波くんは黙っている。これ以上何か言っても困らせてしまう。私も、傷つくのはやっぱり怖い。
じゃあね、と手短に言ってすぐ電話を切ろうと耳から話す。指が画面をタップする寸前、真波くんが口を開いた。

「今って家?」
「……駅前の公園」

答えを聞くやいなや電話は切られた。一方的すぎる電話で怒らせてしまったかもしれない。直接面と向かってフラれるのってなかなかハードだよなぁ、なんて、玉砕覚悟で告白した私が言えたことではないのだけど。
時間を見ようとスマホのスリープを解いたところで自転車のタイヤが擦れる音がして、公園の前に真っ白いロードバイクが停まった。電話が切れてから何分も経ってない。予想よりもずいぶんと早い再会に、どんな顔をして立っていればいいかわからなかった。

「春岡さん」
「……」
「ちょっと話そうか」


150317
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