メトロポリスジャック | ナノ

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始まったばかりと思っていた一学期も終盤に近づいている。夏休みを目前に浮き足立ちたいところだけど、その前には私たち高校生の最大の敵、期末試験がある。勉強の進捗度合いを嘆くクラスメイトを横目に、しかし私は頬が緩んでいた。さすがの自転車部も試験前は活動停止になるはず。

この前の日曜は中途半端になってしまったけれど、ここから挽回すればいい。テスト前の一週間でぐっと距離が縮むことも有り得る。
…と、思っていた。

「今日帰れないの?」
「うん、山登ってくるんだ。先輩たちもこっそり練習してるみたいだし」
「そうなんだー…」

そんなキラキラの笑顔で言われたら、行かないでなんて言えないじゃないか。私と駅まで歩くより、山を登っていたほうが真波くんにとって確実に楽しいと思う。

「練習頑張ってね」
「ありがと!春岡さん」













早めに家に着いて、なんとなく夕食を食べる気になれず、勉強すると言って部屋に篭った。
一人でいる時間は余計なことを考えてしまうもので、その考えは大抵ネガティブなベクトルに進んでいく。何度考えても真波くんが私と付き合うメリットは見つけられないし、そもそもなぜ私の告白を断らなかったのか未だにわからない。
数学の問題を解く手は一時間くらい止まったままだ。教科書を見つめても公式が頭に入ってくることもなければ、明日提出の課題はいっこうに進まない。気分転換と自分に言い訳して、財布とスマホだけ持って家を出た。
まばらな街灯が照らす住宅街をしばらく歩くと、コンビニの明かりが見えてきた。駅の近くということもあり、この時間でも人影はある。

コンビニに続く横断歩道で信号待ちしていると、逆光ではっきりは見えないけれど、見覚えのあるシルエットが出てきた。ぴょこぴょこ跳ねる髪ですぐにわかった。あれは真波くんだ。
思わす名前を呼びそうになったところで、真波くんの背中に隠れるようにして出てきた宮原さんに、足が止まった。二人共私には気づいていないようで、このまま私が来た道と反対方向に歩いていった。


真波くんと宮原さんは家が近いと言ってたし、部活帰りにたまたま一緒になることもなくはないだろう。なにより二人の仲が良いことは私もよく知っていた。今は私と付き合ってるんじゃないの、とか、他の女の子と喋らないで、とか、そういう独占欲を露わにすることはどうしてもできなかった。正面から拒否されるのが怖かったのだ。

信号は青に変わって二人の後ろ姿も見えなくなった。私はもと来た道を戻り、途中の公園に入った。昼間よりいくぶんマシとはいえ、じっとしているとほんのり汗ばむくらい蒸し暑い。繁華街の明かりのせいか、空を見上げても星は見えなかった。



150309
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