メトロポリスジャック | ナノ

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時計を見ると待ち合わせの時間までもう少しだった。ショーウィンドウに映る自分を見ながら前髪を直したりスカートの丈を気にしたりしてみたが、一向に気分が落ち着くことはない。真波くんのことだから約束を忘れてたなんて十分ありえる。もしかしたらいつもの癖で部活に行ってしまうかもしれない。様々な雑念が浮かんでは消えていく。

「それ欲しいの?」

ショーウインドウに背の高い影が並んだ。私の肩越しにひょっこり顔を出して、真波くんは私の目線の先を同じように覗いていた。
本当のことを言えるはずはなく、話を合わせるために目の前のディスプレイに目を凝らす。中には風船やフラワーアレンジで飾られた華奢なネックレスが置いてあった。可愛い…と思うと同時に変な物じゃなくてよかったと安心した。もっとも、真波くんは大して気にしないと思うけど。

「ううん。見てただけだよ」
「そう?じゃあ行こっか」

今日は話題の恋愛映画を観に行く予定だ。観に来るのはきっとカップルばかりだし、さすがの鈍感な真波くんでも雰囲気に飲まれるだろうという、ヨコシマな目論見があったりする。発券所で並んでいると同じ映画を観るであろう男女が何組かと、休みの日ということもあって親子連れの姿も目立った。
上映時間と映画のタイトルが書かれた電光掲示板を見ていた真波くんがぽつりと呟いた。

「ラブヒメ…」
「らぶひめ?」

真波くんが言ってるのは「劇場版ラブ☆ヒメ 〜姫のきゅるりん大作戦!〜」のことだろうか。なんとなく名前は知っているけど、朝やってる子供向けアニメくらいの知識しかなかった。

「真波くん知ってるの?」
「友達がすごく好きなんだよね。俺は見たことないけど」
「ふぅん」
「面白いのかなぁ」
「……」
「……」
「….こっち観ようか」
「いいの!」












映画は初めて観る私たちでも普通に楽しめるものだった。主人公の姫野湖鳥ちゃんは可愛いかったし、悪の組織と戦うシーンは年甲斐もなく熱くなってしまった。なにより子供と混じってスクリーンに釘付けになる真波くんにキュンときて、気づかれないように何度も横顔を盗み見た。

「面白かったね」
「うん。意外といい話でびっくりした」

感想を言い合いながら映画館を出たところで、真波くんのスマホが鳴った。少しだけ迷ったみたいだったが、ごめんねと言って通話ボタンを押した。

「もしもし委員長?うん…...うん。え?それ今日じゃないとダメ?」

ちらりとこちらを見て、きまりの悪そうな顔。嫌な予感しかしないけれど、なんだろう。

「春岡さんごめん」
「どうしたの」
「あのね、金曜までに提出しないといけない課題があったんだけど…」
「出してないんだ」
「委員長が頼み込んでくれて、なんとか今日までは待ってもらえるみたいなんだ。これ出さないと今度の大会出さないって言われてて」
「委員長って宮原さんだよね。…うん、仕方ないよ」
「……」
「行っていいよ。大会出れなくなったら私も嫌だもん」
「…ありがとう」

真波くんは母親に叱られた子供のようにしょんぼり肩を落とした。正直、その顔が可愛いかったのであまり怒ってないというのが本音だった。私ともっと一緒にいたかったって少しでも思ってくれたなら、今はそれだけで満足だ。
ただちょっと引っかかったのは、宮原さんから電話があったこと。前から仲が良かったのは知っていた。宮原さんは責任感が強いからのんきな幼馴染のことがほっとけないんだと思う。頭では理解しているはずなのに、もやもやと汚い感情が消えないのは私がコドモなだけなのだろうか。
たかが数ヶ月、ましてちゃんと話すようになって一週間の私では、幼馴染に勝つことなんて到底できやしない。そんなこと、わかっていたのに。




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