メトロポリスジャック | ナノ

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晴れて憧れの真波くんと付き合い始めたわけだけど、これといって私の生活が変化することはなかった。
休み時間机に突っ伏している真波くんと言葉を交わすこともなく、昼休みになると以前と変わらずどこかへ消えていった。放課後くらいは一緒に帰れると思ったのに部活が夜まであるらしい。待ってるよと食い下がってみたけど、自転車競技部は特別に学校が閉まった後まで練習が許されてるんだそうだ。図書室で待つこともできず、校門で何時間も待ってるのコワイよなぁ…と結局下校も別々になってしまった。

(これって付き合ってるって言えるのかな…)

部活に入っていない私は掃除が終わるとだいたいそのまま下校する。希に委員会の当番で図書室の当番をしなければならないが、たまに来る生徒に名前と学年を聞いて図書カードを渡すだけの単純な仕事である。元々本が好きなのもあったので、苦ではなかった。
今日は委員会もなく本来ならまっすぐ家に帰るところだ。でも彼氏がいる今、なんだかそれは少し寂しい。靴箱の前まで来て、もう一度教室のほうを覗きに行こうかな、と足を止めた。たしか私が教室を出る時、鞄がまだ置いてあった。
すると廊下を駆ける軽い足音が靴箱の横を通り抜けた。見ると、脱げかけのワイシャツからウェアを覗かせて走る真波くんだった。

「あ、真波くん」
「春岡さん!ちょっと今委員長から逃げてるから、来て」

私の鞄を持ってない方の手を取ると、再び来たときと同じくらいのスピードで駆け出した。ここ何年も体育以外でまともな運動をしていない私には相当キツかったが、真波くんに掴まれた手首が熱くてそんなこと気にしている余裕は微塵もなかった。動悸の原因がどちらかわかったものじゃない。

「ごめんね、一緒に走らせちゃって」

飛び込んだのは、見たことないような本や書類が置いてある資料室だった。いつから掃除してないのか、茶封筒が並んだラックにはうっすらと埃が積もっている。

「部活行かなきゃいけないのにさー、委員長が追っかけてくるんだもん」
「そ、そっか」

ドアに付いている磨りガラスに顔を近づけて外の様子を窺っている。この部屋は暗いので、廊下から見ればこちらに人がいることはわからないだろう。

「よし、行ったみたい」
「もう行くの?」
「うん。部活だからね」

あっけらかんと笑う真波くんに悪気はないんだと再確認しつつも、やっぱり寂しいものは寂しい。

「休みの日も部活?」
「そうだけど….なんで?」

なんでって言われても…。口ごもると、真波くんは不思議そうな顔をして立ち上がった。

「じゃあ俺行くね」

もうワイシャツのボタンは全て外れている。これから自転車に乗るのが楽しみで仕方ないんだろうな。そんな彼を好きになったんだ。これ以上贅沢言ったらバチが当たるってものだ。
途中まで見送ろうと私も立ち上がると、ドアの前で真波くんが急に立ち止まった。

「そうだ、春岡さん」
「どうしたの?」
「今週の日曜空けといて。部活オフなんだ」

半開きのドアから吹き込む風が真っ白いワイシャツを揺らした。真波くんはさっきと同じように、また笑った。

「デートしよう」



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テーマ「人外ファンタジー」
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