メトロポリスジャック | ナノ

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「うーん.......いいよ。付き合おっか」

まさかそうくるとは思わなかったものだから、告白の返事の後、妙な沈黙が二人の間を流れた。何も言い出さない私に真波くんは少し困ったように首をかしげ、「これからよろしくね、カノジョさん」と笑った。天使である。














真波山岳くんは掴み所のない人だった。授業中に見るといつも寝ていて、休み時間になっても寝ている。昼休みになると忽然と姿を消したかと思うと、五限が始まる頃には自分の席で寝ている。かといって友達がいないわけではなく、起きているときはいつも誰かとにこにこ話していた。そして放課後になると、驚くべき早さで教室から姿を消すのだ。
クラスでは「不思議ちゃん」なんて呼ばれているけど、自転車部の追っかけをしている友達が言うには、部内でも同じように呼ばれているらしい。部活中も寝ているのだろうか。

そんな真波くんだが、クラスの女子からは密かな支持があった。最初のうちは容姿の面で表立ってもてはやされることはなかったのだけど、よく見ると可愛い顔をしていると誰かが言い出したのを皮切りに「実は私も思ってた」「言われてみれば」と賛同する女子が増え、気づけば真波くんの寝顔写メが女子の間で出回る静かなブームが巻き起こったのだった。
そしてこの状況に私は焦っていた。真波くんが可愛いのは今に始まったことではない。私からすれば、何を今更という感じである。四月に真波くんと同じクラスになった瞬間から、私は彼しか見ていなかった。

数学で当てられた時笑ってごまかす真波くん、英語の教科書を盾にカロリーメイトをかじる真波くん、全ての瞬間を焼き付けたくて、視力が良くないのに席替えの度に後ろの席を確保していた。しかし、寝ている姿を勝手に写真に収めるようなことは一度もしなかった。そんなことをした瞬間に、私たちはただのクラスメイトからアイドルとファンになってしまうような気がした。普通のクラスメートとして接することができなくなるのが怖かったのだ。同じ理由で真波くんの部活に応援に行ったこともない。もちろんそんなの余計な心配で、同じクラスになって以来、まともに言葉を交わしたことはなかったのだけど。せいぜい「消しゴム落ちたよ」だとか「三年生の先輩呼んでるよ」くらいのものだった。それなら周りの子と同じようにうちわを持って沿道で応援していた方が幸せだったかもしれない。真波くんに手を振ってもらえて、自転車で走る姿を見ることができる。こんな幸せなことはないのではないか。


そんな折だった。今まで愛でる対象だった真波くんのことを、好きになったかもしれないと言う子が現れた。愛玩動物のように可愛がられているものと油断していた私には相当ショッキングで、それが今回の突拍子の無い行動を引き起こしたわけだが。
早く想いを伝えないと誰かのものになってしまうんじゃないか。そんな思いが私を駆り立て、部活に行く途中の真波くんを呼び止めたのだった。



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