6
「うーんと…何から聞けばいいかわかんないや」
私が立ち上がると、入れ替わるように真波くんがベンチに腰を下ろした。急いで来てくれたのかもしれない。いつもさらさらと流れている前髪があさっての方を向いている。
「春岡さんは俺のこと嫌いになっちゃった?」
「違うよ!そうじゃなくて…。真波くんにはもっと別の人がいるじゃん」
はっきりわかっていたことだけど、自分の口から言うのはけっこうキツイ。
「このまま無理して付き合ってもらっても、私は嫌だよ。それにその…宮原さんにも悪いし」
「…なんで委員長が出てくるの?」
「だって真波くん、宮原さんが好きなんだよね」
「……」
「……」
「……」
「…そうなの?」
「え?」
ぽかんとした真波くんの表情に、私も驚いて固まった。
「委員長のことは普通に好きだけど…。春岡さんが言ってるようなのじゃないとおもう」
「ほ、ほんと…?」
「うん。………春岡さんはさ、可愛いし、いっつも委員会の仕事遅くまで頑張ってて、良い子なんだろうなーって思ってた。ずっと」
「……うん」
「でもそれだけじゃだめなのかなぁ」
「……」
「好きってなんだろうね」
こっちを向いていた大きな目が、どこか遠くを見るように逸らされた。
失礼だけど、彼はこういうことには無頓着だと思っていた。でも彼は彼なりにちゃんと考えてくれてたのかもしれない。今さらになってもっともっと好きになりそうで、本当に最後までずるい人だった。
「わ、私も、よくわかんないんだけど」
やっとのこと絞り出したのは自信なさげな弱々しい声だった。
「例えば、一緒にいると幸せだなって思ったり、その人のこと考えるとどきどきしたり、そいうことだと思う。好きって」
やっぱり真波くんの方は見れない。一気に喋らないと涙が出てきそうだった。
情けないなぁ。
私の言葉を最後まで聞くと、座っていた影がゆらりと立ち上がった。内股気味の私のサンダルに一回り大きなスニーカーが近づく。
ずっと、真波くんの頭の中を見てみたかった。その中に私はどれくらいいるんだろう。自転車と山の次の次くらいでいいから、そこに私の居場所があったらいいのに。
「春岡さん、どきどきしてる?」
「え、えっと….その」
「俺、今すごいどきどきしてる」
真波くんのほっぺが赤いのは走ってきたせい?電話を掛けたらすぐ来てくれたのはなんで?
聞きたいことはたくさんあったのに、頭の中は真っ白だった。
「春岡さん」
こっちを真っ直ぐ見つめる二つの目には、確かに私が映っていた。
end
150330