高校生になって初めて、私は遠距離恋愛というのを始めた。東京と秋田、いくら新幹線があるからといってその距離は決して近くない。今彼が何をしているのか、今日のお昼は何を食べたのか、部活でどんな練習をしているのか、私はこの目で見ることができないのだ。これに耐えられるカップルがいるというのなら、ぜひともお会いしたい。
電話はときどきする。彼が暇そうな時間を見計らって発信するけど、大抵彼は寝ていて、一時間くらい経ってから折り返し着信がくる。「なんか用ー?」眠そうな声で言う彼に、私は決まって「別に、用とかじゃないんだけど」と言う。「敦の声が聞きたかったんだよ」と言うときもある。遠距離というのは人をダイタンにさせるのだ。
メールはあまりしない。送ったとしても返事がくることは稀で、やり取りが続いた試しなどなかった。私がメールを送ったら、返事が電話できたこともある。文字を打つのが面倒くさいんだそうだ。「ほら、俺、手ぇでかいじゃん?」そういう問題じゃない気がする。

「もしもし、あつし?」
「…ん」
「急に黙るから寝ちゃったかと思った」
「そんなすぐ寝ねぇし」

中学校のときまでの日常は、高校に入ってからはまるでおとぎ話のようにきらきらして見えた。寝ぼすけの彼を起こしに毎朝家の前まで行った。お昼ももちろん一緒に食べたし、放課後、敦の部活が終わるのを待つこともあった。
電話なんかしなくても、私はいつでも敦と繋がっていた。

「眠い?」
「んー…」

そういえば、最後に敦のほうから連絡があったのはいつだったろう。声を聞きたいのも、会いたいのも、触れたいのも、もしかして私だけなんじゃないかって、最近頭を巡るのはそんなことだった。

「そろそろ切ろっか。ごめんね、遅くまで」
「待って、まだ切っちゃだめ」
「あ、うん…」
「もうちょい」

そのとき、玄関のインターフォンが鳴った。居間にいるお父さんとお母さんは気づいてないみたいで、誰も出る気配はない。

「ごめん、誰か来たみたい」

ちょっと出てくるね。そう言って私は携帯を片手にベッドから立ち上がった。玄関の鍵を開けて、戸を開く。そして次に見えたものに、自分の目を疑った。だってまさか、そんな。

「来ちゃった」

夜遅くの訪問者は、携帯を耳に当てたままへらっと笑って立っていた。それは宅配便のお兄さんでも、新聞屋の勧誘でもなくて、私がずっとずっと会いたかった、敦だった。

「なんで…」

携帯が手から滑り落ちてしまいそうだった。機械を通さないで聞いた敦の声は当たり前に変わってなくて、なんだか無性に泣けてきた。

「ナマエに会いたかったから、じゃだめ?」
「…だめ、じゃない」
「はい、おいで」

両手を広げた敦の胸に、私は勢いよく飛びついた。中学の頃より伸びた身長と変わらない匂いに包まれて、おとぎ話みたいなきらきらが、また戻ってきたような気がした。「ナマエ重いんだけどー」と笑う敦に、へたくそな照れ隠しは変わってないなと思わず頬が緩んでしまう。
遠距離恋愛は、人をダイタンにさせる。こういうのも、なかなか悪くない。



131116
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -