「俺さー、好きかも」
「なにを」
「お前?」
「うん?」


このやり取りをしたのが二週間前。なんで疑問系?とか「かも」ってなんだよ女子か!とか突っ込みたいことは多々あったけど、とにもかくにも私たちは、晴れてコイビト同士になったのだった。


「おいナマエ、帰るぞ」
「あ、うん」


週に何回か、終わりの授業が被るときは一緒に帰った。そうすると彼は必ず遠回りして私を家の前まで送ってくれる。友達だった期間が長かったせいか、こういう女の子扱いはちょっとむずむずしてしまう。
そしてゼミのプレゼンがだるいとか、サークルの飲み会がめんどくさいとか、付き合う前となんの変わりもない会話をして、うちの前でばいばいする。

「じゃ、明日な」
「うん。おやすみ」

付き合い始めてからも彼は淡泊だった。メールや電話の回数が飛躍的に増えたわけでもなければ恋人らしいあれこれもまだ、ない。そのせいかこれといって二人の関係が変わった実感はなかった。そういうところまで含めて彼を理解しているつもりだけど、寂しくないと言ったら嘘になる。

薄暗い外灯に照らされて、背中が遠ざかっていく。すぐ家に入るのもなんとなくためらわれて、離れていく背中を眺めた。一段と冷たくなった冬の風が頬をかすめる。

「宮地?」

見えなくなるまで見ていようと決めたのに、彼は見えなくなるどころかくるっと振り向いて、こっちに歩いてきた。どんどん近くなる宮地に私はただ突っ立って、目を瞬かせるしかなかった。

「どうしたの、」

次の瞬間私の視界は宮地のコートの色一色になった。二本の腕が遠慮がちに背中に回される。抱きしめられたのだと頭が理解するのに、少し時間がかかった。

「…なんでもない」

私を解放すると、彼は決まり悪そうな顔で頭をかいた。吹き抜ける風は冷たいのに、頭がのぼせたみたいにくらくらする。熱が出たときとも酔っ払ったときとも違うおかしな感覚に、心臓がどきどきうるさい。

「じゃあな。早く部屋入れよ、風邪引くから」

風邪なんか引くわけないじゃん。暑いくらいだよ。

じ、と見上げたら耳が真っ赤に染まっていた。宮地も暑いのかな、私と同じくらい。

「あのさ」
「んだよ、あんま見んな」
「…私ちゃんと言ってなかったよね」

今にも逃げ出したそうなコートの裾を引っ張って、俯き加減の顔と視線を合わせる。やっぱり宮地は大きくて、首を痛いくらい曲げないと目が合わない。話してると首痛くなるとかいつも文句言ってたけど、こうやって見上げるの、実は嫌いじゃないんだよ。
毎回話すバスケの話も、好きなアイドルの話も、手のかかる後輩の話も、ほんとは全部すき。


私には、宮地に隠してる気持ちがいっぱいいっぱいある。


「……好きだよ、宮地」


さて、何から話そうか。




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