最近思うことがある。愛情が、足りない。


「ねぇ真」

「ん」

「私のことどれくらい好き?」


彼が淡泊なほうだとは知っていたし、付き合ってから何かが劇的に変化するなんて期待はしてなかったから、まぁこんなものだろうと納得することもできた。しかし友達カップルののろけ話を聞いたり、テレビや雑誌の体験談を聞いているうち、もしかして私はすごく不幸なんじゃないかと気づいてしまったのだ。

そもそも私は、ちゃんと好きと言われたことがない。付き合うときも「じゃあ、まあ付き合うか」「そうだね」みたいな事務的な確認作業だったし、記念日に愛を囁いてくれるような気の利いた奴でないことは私が一番よく知っている。
私たちには、愛情が足りていないのだ。

「…なに急に」

斜め前を歩いていた真はすごく面倒そうに振り返った。

「んー…なんだろ、人恋しくなったのかな」

「知らねぇよ」

真っ白い溜め息をつくと、真はまた歩き出そうとする。いやいやちょっと待ってよ。後ろから慌ててコートの裾を引っ張ると、なんだよ、と嫌々止まってくれた。

「そんなのむやみに言うもんじゃないだろ」

「真はいっかいも言ってくれたことない」

「……」

「ほら、今がそのときだよ」

さぁ、と真を促す。
私たちだって、もっと世のカップルみたいに甘い時間を過ごすべきだと思うの。普段そんな不満口にしないけど、私だって少しは憧れるよ。
はぐらかされるかと思ったけど、意外にも真は反論してこなかった。大人しく私と向かい合う。

「…まこと」

「………」

足元をうろうろしていた視線が、期待に満ちた私のとかち合った。そして二人して見つめ合う。信じられないくらい良い雰囲気だ。私のどきどきも最高潮になる。
と、同時に真の目が泳いだ。


「…か」

「か?」

「……帰るぞ」

「……」

「……」


「……え?」



聞き間違いじゃないよね。今なんて言った?ぽかんとする私の手を掴んで、真はずんずん歩きだした。私の制止の声にも耳を貸してくれない。

「ちょっと、肝心なとこでへたれないでよ」

「ちげーよ、馬鹿らしくなっただけだ」

信じられない。ここまできてこれって。怒りを通り越して言葉が出ない。ぎゅうぎゅう握られた右手が痛い。歩くのも早いし、私になんか合わせてくれないし。


「…わかんだろ、言わなくても」


どんどん先に行っちゃうから、真が今どんな顔をしてるのかわからない。


「つーか、わかれよ」


でも仕草で、声の調子で、喋り方で、私は彼がなにを考えてるのかわかってしまう。悔しいけど、全部真の言う通りだった。


「なぁ」

「なに」

「帰ったらシチュー食いたい」

「…ん、じゃあ作る」


私も負けないように繋いだ手に力をこめた。手のおうとつはぴったり重なり合って、私の手は最初から真とこうするためにあるみたいだった。

これも愛情なのかな。
めったに繋がない手を真のほうから繋いできたのに免じて、今回は許してあげることにした。家に帰ったら、とびきり美味しいシチューを作ってあげよう。





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