昔から、赤司という姓には因縁があった。全ての始まりは中学1年生。俺は赤司征十郎と出会った。同級生のみならず、上級生にも恐れられていた赤司は、その才覚を発揮してか瞬く間に部長の職に就いた。続いて俺も、副部長を任されたのだ。
他の一軍の選手も赤司の恐ろしさは痛感していると思うが、間近で行動を共にしていた俺はその比じゃない。赤司のあんな一面やこんな一面、とても口外できないような裏の顔まで、様々見てきた。同情を誘う気は無いが、この気苦労がわかるだろうか。
そんな地獄の三年間を終え、俺は秀徳高校に入学した。やっと赤司の呪縛から解放される。新しい学校生活のスタートだ。四月、期待を胸に、一年生の教室に足を踏み入れた。

「わっ」

入り口に人がいたらしい。ぶつかった拍子に、ラッキーアイテムのセロテープが足元に転がる。

「ごめん。落としちゃった」

「いや、こちらも不注意だったのだよ。すまない」

セロテープを拾い上げた女子生徒は、俺ににっこり笑いかけた。その顔を見て、背筋が寒くなった。

「・・・お、お前」

赤くなびく髪の毛、透き通った赤と黄色の瞳。そしてなにより、ネームプレートの苗字が全てを物語っていた。

「・・つかぬ事を聞くが、兄弟はいるか?」

「いるけど・・ずいぶん急だね」

「名前は?」

「名前?」

「あぁ、知りたいんだ」

「征十郎だよ。・・・赤司征十郎」

赤司には、双子の妹がいた。













俺が赤司に振り回されるのは天命なのかもしれない。まだ十数年の人生だが、俺はすでに諦めかけていた。

「緑間ー聞いてるー?」

文庫本を持つ手が揺さぶられる。読書なんてできたもんじゃない。最も、こいつの後ろの席になったときからまともに自分の時間を過した記憶などないのだが。

「一緒に来てほしいって言ってるんだけど。さっきから何回も」

「だからなぜ俺が・・」

「だって征十郎と二人っきりで会うなんて、絶対嫌!」

ナマエは紙パックのりんごジュースをぐしゃりと握り潰した。飛沫がブックカバーに飛び散る。こんなのももう慣れた。

「妹の顔が見たくて東京まではるばる会いに来るって、どうかしてるよ」

「中学も高校も別々だったから、寂しいんじゃないのか」

「何言ってるの。私たち別に仲良くないし」

「なら断ればいいだろう」

「あいつから逃げられると思う?」

「だからといって俺を巻き込むな!それに兄妹で会うのに俺が同席したらおかしいだろう」

「・・・はぁ、こんな手は使いたくなかったけど、仕方ないね」

「なんだ」

「緑間、これ」

「それは・・・!」

内ポケットから取り出したのは、45度の三角定規。今日のかに座のラッキーアイテムだ。まさかと思い自分の制服のポケットを探ると、ない。今朝入れたはずの三角定規が、どこにもない。

「返してほしいよね、これ」

「貴様・・・!」

これが赤司家のやり方か。なんて卑劣な。しかし俺は屈さないぞ。こんなやり方でやり込められると思ったら大間違いだ。

「ふ、ナマエ、そんな幼稚な脅しで俺が言うことを聞くとでも?」

次の瞬間、ナマエは窓の外めがけて三角定規を振りかぶった。













「元気にしてたかい、ナマエ。久しぶりに顔を見れて嬉しいよ」

「私は別に嬉しくない」

「わざわざ京都から会いに来たって言うのに、冷たいな。久しぶりの兄妹の再会じゃないか」

「来てって頼んでないし」

「ふふ、相変わらずだな、ナマエは」

赤司はティーカップを静かにテーブルに置くと、伏せていた目をゆっくりと上げた。



「で、なんで真太郎がいるんだい」




俺が聞きたいのだよ。
赤司の方を見ることができず、俺は視線を自分のつま先に落とした。

「いいでしょ。征十郎だって中学時代の仲間に会えて嬉しいんじゃないの」

「僕はナマエと兄妹水入らずで話がしたいと言った筈だ」

「そうか、これはとんだ邪魔をした。俺はこれで失礼しよ・・っう''」

「待って!」

勢いよく席を立つと、ナマエに制服の襟を掴まれて無理矢理座らせられる。さすが天帝の妹、パワーも伊達じゃない。いやそんなこと言ってる場合じゃなかった。

「緑間!私を一人にしないで」

「何言ってるんだ。僕がいるじゃないか」

間を隔てるテーブルが頼りなく感じるほど、赤司の殺気が全身に降り注いだ。そんな兄の様子を知ってか知らずか、ナマエは俺を逃がしはしないと腕に絡みついてくる。

「俺はもう知らん!離せナマエ!」

「嫌!私と緑間・・いや、真太郎の仲でしょ!」

「なに・・・?」

赤司の眼光が鋭くなる。誤解を生むような発言はやめてくれ。後にも先にも、ナマエとクラスメイト以上の関係になった記憶はない。断じてない。

「一晩中一緒に過ごしたり、二人でお風呂に入ったりしたじゃない!」

「お、おい・・!」

恐らくナマエが言ってるのは、学校の課外授業でクラスみんなで流星群を見に行ったことだ。二人で風呂と言うのは、宿泊研修で規律をみだした罰として風呂掃除を命じられたことを言っている。たまたま一緒にいた俺はとばっちりを受けるはめになった。いわば被害者だ。

「それは事実か、真太郎」

「いや、間違ってはいないが言い方に語弊が・・」

「事実なんだな」

その時、赤司の表情が変わった。全てを見透かしてしまいそうな冷たい目。大事な試合のときすら見たことない赤司の様子に、全身の血の気が引いた気がした。

「赤司、違うのだよ。話を・・」

「ナマエ」

「っ、はい」

赤司は残りの紅茶を飲み干すと、椅子に深く座り直す。

「少々事情が変わった。お兄ちゃん、真太郎と話があるから、ナマエは先に家に帰ってなさい」

「・・はい」

赤司の変化を察してか、ナマエが急に大人しくなった。
おい。さっきまでの威勢はどうした。俺とお前の仲なんじゃないのか。おい、ナマエ・・

「では、失礼します」

手際良く荷物をまとめると、小さく礼をしてナマエは回れ右をした。と、同時に肩に乗せられた手。

「さて、真太郎。」

「・・・はい」


「建設的な話し合いをしようか」


今日の占い、かに座は3位。ラッキーアイテムのゴム手袋もきちんと携帯した。
薄々気づいてはいた。俺は人事を尽くしていないわけでも、努力を怠ったわけでもない。相手が赤司だった、ただそれだけだ。




130113
・赤司の双子の妹・秀徳高校緑間と同じクラス・征十郎呼び・ギスギスしてる
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