ここは、どこだ。
行き交う色とりどりのジャージとユニフォームの中に、場違いに制服を着た私は一人いた。

バスケ部の試合を見に行こうと言い出した友達に連れられ、初めて足を踏み入れた大きなドーム。最初こそコートの広さや立派な設備に感動していたが、一旦友達とはぐれてしまえば、この複雑に入り組んだ長い廊下もいくつもあるホールも、私の前に立ちはだかる障害でしかない。
連絡を取ろうにも、都心からやや外れた所に位置するこの会場では、携帯は到着してからずっと圏外だった。

でたらめに歩き続けて、またさっきまでいた選手用控え室まで来てしまった。高校名が書いた紙が貼られたドアが並ぶ廊下は、知らない高校生たちで溢れ返っていた。

すれ違う選手たちの視線が痛い。私は昔から他人に注目されるのが苦手なんだ。早いとこうちの生徒を見つけないと、精神的にも、かなりきつい。

「あっれーどうしたのー?キミ」

するとこの緊迫した状況にそぐわぬ気の抜けた声が頭の上から降ってきた。
振り返ると、異様に前髪の長い男の子がやる気なさそうに立っていた。ジャージから覗くユニフォームには10番と書いてある。この人も選手だろうか。

「大丈夫?困ってるみたいだけど」
「…いえ。べ、別に」
「迷子?」
「違います」
「うっそー。さっきから同じとこ行ったり来たりしてんじゃん」

どうやら見られていたらしい。恥ずかしくて一刻も早くこの場を立ち去りたい。

「大丈夫なので」
「ほんとに?戻り方わかんの?」
「う…」
「この高校知ってるよ。次あっちのコートで試合あるよね」

その人は私の制服を見てそう言うと、風船ガムを大きく膨らませた。

「えっ!知ってるんですか」

ここに来てまさかの救いの手に思わず声が上擦ってしまった。

「よかったぁ」
「やっぱ迷子だったんじゃん」
「ち、違いますよ…」
「どうだかー」






「うお!原、こんなとこいたのかよ」


私たちが狭い廊下で話していると、同じユニフォームを着た短髪の男の子が横を通り過ぎかけ、私たちを二度見すると立ち止まった。

「なんだザキか」

ザキと呼ばれたその目付きの悪い人は、私のほうを何度もちらちらと気にしながら落ち着かないように10番さんに詰め寄った。

「なんだじゃねぇよ!もう始まるってのに何やってんだお前」
「んー?今この子ナンパしてたとこ」
「は!?」

これには私も驚いて、思わず10番さんのほうを見る。
前髪に隠れた表情は読み取れないけどにやにやと緩んだ口元から、からかわれてるってことだけはわかる。

「…早く戻れよ。花宮キレっから」
「うーす」

なぜか私よりも動揺した様子の目付きの悪い人は、それだけ言うと足早に立ち去っていった。

「次、試合なんですね」
「そうみたいねー。面倒だけど行かなきゃね」
「はぁ」
「応援よろしくねん」
「…えーと、頑張って、ください」
「まかして」

まっすぐ行って右の、Aコートね、と私に教えると、10番さんは反対の通路に消えてしまった。
ほっとしたような、ちょっと寂しいような。迷子になってよかったかもなんて思ってしまって、自分の現金さに呆れた。



「ナマエどこ行ってたの。試合始まるよ!」


会場に辿り着くと、友達はゴール後ろの見やすい席を陣取りすでに選手たちのチェックを開始していた。うちの学校の何番がかっこいいだの、何番はユニフォームを着ると三割増しだの。

私がかなりの間行方をくらましてたにも関わらず、そのことをあまり気に留めていないみたいで、一応心配するそぶりは見せるけど、目線はしっかりとアップを始めた選手たちに注がれている。

「ほら見て!向こうの学校も結構いいんだよね〜」
「あー、そうだね」
「私は8番かなぁ。ナマエは?」
「えぇ、私は別に……あ」
「どうしたの。イケメンいた?」
「あの10番…!」

コートを見下ろして、驚愕した。うちの学校の対戦相手は霧崎第一という学校で、さっきの彼はそこのユニフォームを来てコートに出てきたのだった。

「なになに、アンタああいうのがタイプなわけ?」
「……ちがう」

まさか対戦相手だったなんて。


















試合は向こうの圧勝だった。
試合終了のブザーと同時に観客席の私を振り向いてピースした10番さんに、胸の辺りがざわざわした。よくこんな大勢の中から私を見つけられたなと感心するのと同時に、私も試合中、自分の高校そっちのけで彼を目で追っていたことに気づいた。

「ねーねー!」

突然コートから響いた大声に、観客席の生徒たちが一斉に私を振り向いた。
見ると、あの10番さんが私の方にぶんぶんて手を振っていた。

「あのさー!」

一刻も早くみんなの視線から逃れたくて、ゼスチャーで「後で聞くから」と伝えてみたが、だめだった。選手含め、周りからの痛いくらいの視線など気にもならないようで、10番さんは言葉を続けた。

「この試合勝ったからさー、デートしてよー」
「はぁ!?」
「いいっしょー?」

よくないです。
ほんと勘弁してください。私、目立つの苦手って言ったじゃないですか。
試合に負けたというのに一気に盛り上がる観客席に、私は頭が痛くなった。





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