「寒くなってきたね」
「そうですね」
「もう冬かぁ」
「ずいぶん陽も短くなりましたよね」

ポケットの中で繋いだ手がもぞもぞ動くたび、冷たい空気が流れ込んでくる。夕飯の材料が入ったスーパーの袋は二人で半分こ。重いほうはもちろんあっちにある。

「夕日って、今くらいが一番綺麗な気がします」
「そうだね」

沈みかけの太陽が目に眩しい。
落ち葉を鳴らして歩く帰り道、ベタだけど、こんなのが幸せなのかも、なんて思ってみたりした。

「最近みんな就活の話ばっかでさぁ」
「まぁ、そういう時期ですね」
「やだなー」
「嫌でもやらなきゃいけないんです」
「そうだけどさぁ」

二人分の影が面白いくらい長く伸びている。黒子くんの腕にくっついて、首をこてんと傾けると、二人の間に隙間がなくなる。細長かった二本の影が、ひとつになった。黒子くんは、歩きづらい、とちょっと笑った。

「黒子くんは卒業したらどうするの」
「そうですね」
「決まってる?」
「うーん・・・海外とか行ってみたいかも、しれない」
「え、嘘」

夕日が公園の銀杏の影に隠れた。黒子くんは淡々と続ける。

「まだ具体的に決めてるわけではないんですけど、興味があって」
「夏に短期留学してたもんね」
「はい。それがきっかけみたいなとこあるんですけど」

真面目な話に照れたのか、黒子くんはマフラーに口を埋めた。急にスーパーの袋が重くなったような気がした。

「…なんだ、ちゃんと考えてんじゃん」
「失礼ですね。当たり前です」

隣にいるはずの彼が遠くに感じた。私を追い越して、どんどん先に行ってしまう気がして。見えなくなってしまう気がして。
夕日が傾いて、銀杏の隙間から光が漏れた。また少し眩しくなって、思わず目を細める。

「....黒子くん」
「はい」
「置いてかないでね」
「はい?」
「私のこと置いてっちゃうの、やだよ」
「....プロポーズですか?」
「えっ?いや、そういう…」
「冗談ですよ」

冗談って真顔で言うものじゃないと思う。黒子くんは表情を変えずに、そうですね、と言った。

「ミョウジさんがついてくればいいんじゃないですか」
「え?」
「置いてかれないように、ついてくるんです」

無意識に繋いだ手に力がこもる。柔らかく笑う黒子くんの横顔を、私はどきどきしながら見ていた。

「黙って俺について来いってこと?」
「な、んか....僕が言うのは違いますね」
「でもそういうことでしょ?」
「そっか。じゃあ、黙って俺について来い、です」

自分のことをうるさく主張するタイプじゃないけど、芯の通った真っ直ぐな所が好き。照れると下のほうに泳ぐ視線も好き。黒子くんと出会った日から、私はどんどん黒子くんが好きになる。

「置いてかれないように、私頑張るから」
「当たり前です」

少しだけ先を歩く彼を、私はずっとずっと追いかけていたいと思った。




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