「鬼灯くんって可愛げないよね」
「はい?」

こちらを睨むしかめっ面は不機嫌そのもの。

「後輩ってもっと初々しくて、面倒見てあげたくなるものだと思ってた」
「はぁ」

役職こそ今では彼のほうが上だけど、年齢は私が上で、ここに入ってきたときは私が彼の教育係みたいなものだった。入ってきたばかりの頃はよかった。頭が切れるといえど所詮子供。言うことは素直に聞いてくれたし、私の後ろをちょこちょこと着いてくるそれはそれは可愛らしい子供だった。

「昔は可愛かったのになぁ」
「......」
「こーんな小っちゃくてさ、ナマエさん、ナマエさん、って呼んで」

気づけばこんなに大きくなっちゃって。無駄に大きい身長は首を曲げて見上げないと目も合わない。成長って怖いなぁ。

「ナマエさんは嫌ですか」

興味なさそうに私の話を聞いていた鬼灯くんが、手元の書類を放り出して立ち上がった。雑務の間の息抜きのつもりで振った話題を、彼が真剣に取り合うと思わなかったから、近づいてくる影に思わずたじろいだ。

「今の私は嫌いですか」
「いや、嫌いとかじゃないけど」
「ではどう思ってるんです」
「どうって…」
「ナマエさんは、私のことをどう思ってるんです」

いつも表情の変わらない彼は、何を考えているのかわからない。こんな悪い冗談を言うような人ではないのは、私がよく知っているはずだったが。

「良い機会ですし、私としてははっきりさせておきたいのですが」

普段デスクワーク中心で、拷問もロクに見たこともない私が鬼灯くんの本気の気迫に耐えられるはずもない。一歩、また一歩と近づいてくる鬼灯くんに、無意識に背筋が伸びる。

「私は初めて会ったときからあなたをお慕いしています」
「...は」
「良い機会ですし、あなたがどう思っているのか聞きたいと思いまして」
「ちょっと待って。お慕…え?」
「はい。あなたのことが好きです」
「好きって…その、先輩として…」
「恋愛感情です」

照れた様子もなく淡々と受け答える彼。からかっているのだろうか。

「鬼灯くん」
「はい」
「な、何か勘違いしてないかな」
「と、言うと」
「ほら、先輩への憧れを好きと誤解しちゃうっていうの、若い頃にありがちな勘違いだと思うの」
「あなた自分が憧れの対象だと思ってたんですか。厚かましい」
「えぇ…そんなはっきり言わなくても…」

これまでそれなりに良い先輩をやってきたつもりだった。地味にショックだ。

「断じて勘違いではありません」

念を押すように否定すると、鬼灯くんはさらに距離を詰めてきた。それに応じて後ずさると、デスクに腰がぶつかった。これ以上は逃げれない。
怯える私に構わず、鬼灯くんはそのまま私をデスクの上に押し倒した。

「ひゃ」
「言ってしまえば、今この状況にも少なからず興奮してますし」
「真顔でとんでもないカミングアウトしないで」
「好きなんですよ」

そう零した鬼灯くんの顔は、どこか辛そうだった。逆光になって見づらいけど、いつも眉間に刻まれているシワがさらに深い気がする。
そのシワを見ていたら、さらさらの黒髪が頬を撫でた。尖った犬歯が唇に当たる。鬼灯くんは、私にキスしていた。

「愛しています」
「……」
「あなたにとったらいつまでも子供にしか見えないでしょうけど」

心臓を鷲掴みされた気持ちだった。口に出して言ったことはなかったが、私は彼を子供だなんて思ったことはない。ぐんぐん伸びる身長と男らしい体躯に目を奪われていたのは、彼を大人の男の人だと意識していたのは、私のほうだったのではないか。

「私、こう見えてSなので、あなたと相性良いと思いますよ」
「そ、そう…。それは意外ね…」

もしかすると私はとんでもない後輩を育ててしまったかもしれない。



150927
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