そろそろお風呂に入ろうかとベッドから立ち上がったときだ。スマホが短く鳴って玲央から写真が届いた。見ると赤司くんの後頭部の写真で、『征ちゃんのつむじ。』というメッセージが付いている。
可愛いね、と返したけれど特に返事はなく、時間的にも部活が終わった頃だったので『おつかれさま』と続けて送るとすぐ返事がきた。

『うち来る?』

のろのろとベッドに戻ってスマホの画面に集中した。

『じゃあお風呂入ったらいく』
『だめー』
『え』
『すぐ来て』

私は玲央のおねだりに弱かった。普段何を言っても受け入れてくれる母親のような顔をする癖に、ときどき子供のようになるときがある。そうなると私はもう言うがままになってしまう。わけのわからない使命感に突き動かされて気づけば薄手のコートを羽織って家を出ていた。
私の保護欲を掻き立てるのも、甘やかすのも、いつも玲央の役目で、我ながらいいように転がされてるなぁと思う。それをわかった上でなお悪い気はしないのだから、私も私だ。
寮の部屋に着くと、ちょうど玲央がシャワーから出てきたところだった。

「ずるい、自分だけ」
「私はいいの」

玲央は半乾きの髪をかきあげながら、私に座るよう促した。
学校の寮には一人部屋と二人部屋があって、ここは一応一人部屋だったけど、ベッドをひとつ置いたら半分埋まってしまうくらいの広さしかなかった。加えて、すぐ隣の部屋には顔馴染みのバスケ部員がいるので、ゆっくりくつろげるかといえば実家住まいの私の所と比べても微妙なところだ。
ベッド前のラグに小さくなって座る。ガラステーブルに本棚と、家具は最低限で、男子高生の部屋かと疑いたくなるほど生活感がなかった。唯一床に置いてある物は葉山くんから借りたといっていたバスケ漫画で、先月来たときから1ミリも動かしていないように見えた。
洗面所で鳴っていたドライヤーの音が止んで、先程より髪がふんわりした玲央がワンルームに戻ってくる。部活直後ということを差し引いてもいつもより疲れているように見えた。
玲央がベッドをぽんぽん叩いたのでベッドに座り直すと、太ももにふわふわの髪が乗っかる。
ひざまくらなんてするの、初めてだ。

「…玲央さん」
「んー」
「疲れてるね」

深く、静かな呼吸音は寝息のようにも聞こえた。お腹と向かい合うように横を向いているので表情はよく見えない。ただ座ってるだけで香水みたいなリンスの匂いが漂ってきて、匂いの元を二度、三度と撫でると、もっと強くなった。

「玲央も可愛いよ。つむじ」

私の言葉に、伏せた目が開く。「つむじ」と独り言のように呟くと、玲央は大きな犬のよう私に覆い被さった。掛け布団の上にうつ伏せに倒されて、柔らかい羽毛に体が半分くらい埋まる。慈しむように丁寧に、長い指が頭のてっぺんに触れた。どんな顔してるんだろう。見えないから触られたところに意識を集中させて、なんとか探り出そうとしてみたけどそう簡単にはいかなかった。


ちゅ、と音がして、一瞬熱くなったうなじが冷えていく。
冷たい手がパーカーの裾を掴んで捲り上げた。
部屋着用の少しくたびれたパーカーはいとも簡単に私の体から取り払われ、ぱちんとホックが外された下着と共にベッドの下に落ちた。

「お風呂、入りたかった」
「もう待てないわよ」

ぬるりと指が入ってくる。隣の部屋を気にしてるのか、いつもよりどこか性急な動きだ。
玲央が中に入ってきて動く間、私は枕に顔を押し付けて必死に声を抑えていた。代わりに悲しくもないのに涙がどんどん溢れてきて、見えないのをいいことに思い切り枕を濡らした。
その後もしばらく揺さぶられて動きが止まったかと思うと、はー、と短く息を吐き出す音がして背中の重みが離れていった。
玲央が投げたティシュの塊はきれいにベッドサイドのゴミ箱に収まり、それを横目で見ていたらまた頭を撫でられた。「たまには後ろもいいわね」つむじを愛おしそうに眺めている。

「私は顔見てするほうが好きかも」
「なによ、可愛いこと言うじゃない」
「……」
「もっかいしたいの?」
「そ、そういうつもりじゃない」
「あら、残念」

隣でドアが開く音がした。そろそろ帰らないといけない。



150318
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