不本意な時間に目を覚ましてしまうと、本能的に身体が察知するのか何なのか、大抵目を開ける前にそのことに気づいてしまう。今日は丸1日休みだから昼まで寝てようと決めたのに、薄く開いた瞼から覗いたのはまだ薄暗いワンルームだった。体感で午前四時か、それくらい。近くでゴミ収集車のウインカーがちかちか鳴っている。うちのアパートは最近ゴミ置き場を作り直したのだった。以前はカラスの鳴き声で目を覚ますこともあったが、今ではすっかりなくなった。私の安眠を妨害する要因は、すっかり取り払われたかに思えた。

掛け布団を深く被って目を閉じる。閉じた瞼に、早朝の静けさが染み入るようだ。

しかし、その静寂もすぐに破られることとなった。
廊下を踏み鳴らして、足音が近づいてきた。乱暴な歩き方に反して、ビーチサンダルでも履いてるのか音はぺたぺたと可愛らしい。そして足音は私の部屋の前で止まった。

警察に電話?ベランダから逃げる?と半分寝たままの頭が回転するのを待つことなく、ガチャリと鍵が開いた。間髪入れずにドアが開かれ、人影が、

「ひっ…!」
「ようナマエ」
「え…………森田?」

伸ばしっぱなしの黒髪に、いつ洗ったのかわからないようなシャツとジーパン姿。最後に見たときよりも多少やつれてはいるが、私のよく知る森田だった。

「やー、今回のはきつかった。さっき羽田着いて、そのままここ来たんだけどさ」
「いや、え、なんで?!ていうか鍵…」
「あぁ。じゃーん、合い鍵」

以前酔い潰れた私を部屋に送ってくれたとき、勝手にもらってきたんだそうだ。前々から何の小銭稼ぎをしてるのか怪しんではいたが、本格的に犯罪に手を染めていたとは…。私が言葉を無くしていると、森田は勝手にベッドに横になった。

「ちょっと、汚い!」
「失敬な!今日は綺麗だぞ。空港でシャワー浴びてきたからな」
「え、どうしたの急に…」
「お前が嫌がるからだろ」

にやり、と締まりの無い顔で笑った森田は、警戒心剥き出しの私をなだめるように、頭に手を置いた。森田は私の頭の形が好きらしい。「創造欲が掻き立てられる」と、以前からよくわからない褒められ方をしていた私の頭は、まるで最初からそうするためにあったかのように大きな手にぴったりと収まっている。

「久しぶりだよな」
「……そうだね」
「寂しかった〜とかないのかよ」
「別に…。アンタうるさいし」

頭の形を確かめるように森田の手が頭の上を撫でる。小さい子供を褒めてやる先生のような触り方に、なぜか居心地の悪さを感じてしまった。森田の真っ直ぐな目に見つめられると、なんだか自分がとんでもない悪者のように思えてしまうのだ。

「まーいいや。カラダに聞くから」

また馬鹿なこと言って、と開きかけた口は、森田の唇で塞がれた。血液が回りきってない寝起きの頭は、すぐに酸素が足りないときりきり痛んだ。森田の熱い手が、体温の低い私の背中を滑る。

シャワーを浴びてきたという髪はほんのりシャンプーの匂いがして、指を通すとさらさらと流れた。しばらく会っていなくても匂いというのはそう簡単に忘れられないらしい。森田の髪からは、いつもと違うシャンプーの匂いがした。

「は、久々すぎてやばいかも」

へらりと笑った森田は、しかしさっきまでの余裕は感じられない。もどかしそうに私のTシャツが首まで捲られた。そんなに必死になられたら、こっちもつられてしまうじゃないか。

「最悪だよ…。二度寝しようと思ってたのに」
「どうせ寝れなかったんだろ」
「……」
「お前よく変な時間に起きるもんな」
「気づいてたの」
「隣で寝てたら気づきますよーだ」

聞きなれた軽口も、浮き出た鎖骨も、ぼさぼさの髪も、ひとつひとつ見て、触って、ああほんとうに本物なんだと確かめる。
「もりた」たまらなくなって名前を呼ぶと、気を良くしたのか、お腹を撫でていた手が下へ下へと移動した。

「いい?」
「それ今更聞く?」
「い、いちおう了承得ないとだろ」

乱暴にずらされたブラジャーが肌を締め付けて痛い。それにさっきから辛そうに腰を揺らしてるのに、私が気づかないとでも思ったのだろうか。
黙って自分の下着を脚から抜き取る。はやく、と促すと、森田は嬉しそうにポケットからゴムを取り出した。どんな御託を並べようが、最初からやる気満々だったようだ。

「俺さ、この一カ月ずっとナマエとセックスしてーって思いながら彫刻ほってたんだ」
「んっ、そう…」
「やっとホンモノ触れて泣くほど嬉しいんだよ」
「は、っあ…」
「って聞いてる?」
「あっ…も、うるさい」

減らず口は相変わらずだ。
私の睡眠時間分、彼にはきっちり働いてもらわなくては。





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