「俺、ミョウジさんのこと好きなんだ」

放課後の屋上、傾き始めた夕日が眩しくて目を伏せた。秋風にスカートが揺れる。下着が透けるから夏用の制服は嫌いだったけど、もうすぐお別れだと思うと名残惜しい気もする。あと何回着れるだろうか。

「絶対にあいつより、君を幸せにする自信あるよ」
「……」
「ミョウジさんは騙されてるんだよ」
「……うん。でも、ごめん」
「あいつに脅されてるの?それなら俺が、」
「違うの。……ごめんなさい」

男の目には私が健気な少女のように写ってるのかもしれない。硬く口を閉ざして俯く私に、彼は自分の携帯番号が書かれた紙を渡して、「何か困ったことがあったらいつでも連絡して」と言った。去って行くブレザーの背中を眺めながら深く息を吐く。

「お疲れ様ですー」
「…いつから居たの」

フェンスががしゃ、と鳴って、積んであった机の影から顔を出したのは、花宮だった。

「『急にこんなとこ呼び出してごめんね』あたりから」
「最初っからじゃない。シュミ悪…」
「人聞き悪ぃな。お前らが後から来たんじゃねぇか」

一歩、二歩と間を詰められ、反射的に後ずさるとすぐにフェンスに背中がぶつかった。

「あいつ何だって?」
「…私が好きだって」
「ふは、物好きもいるもんだな」
「うっさい」
「で、ちゃんと言ったの?」
「なにをよ」
「俺のことが好きで好きでたまらないのであなたとは付き合えません、って」
「馬鹿じゃないの」
「本当のことだろ」

口元は笑っているけど、私を見下ろす目は冷たい。毛先に向かってだんだん色素が抜けている私の髪を撫で、目を覗き込んだ。花宮は時々ぞくっとするような顔をするのだ。心臓の裏側まで見透かしてるような、私の全てを知ってるかのような。そして私は、彼には隠し事はできないと確信する。

「つーか、さっき触られてなかった?」
「あー、なんか熱くなられて、ちょっと肩掴まれただけ」
「…そうかよ」

髪の毛を滑っていた手が下に降りて肩を撫でた。反対の手は私の唇の形をなぞる。花宮の冷たい指先が肌の上をすべって、私はバレないように息を飲んだ。

「あいつカワイソー」
「……」
「ナマエにこんなとこできないんだよな、あんなに好きなのに」
「ちょっと、はなみや、」
「ヤじゃないくせに」

着ていたシャツはたちまち乱されて、文句を言おうと開いた口は花宮によって塞がれた。
骨ばった冷たい手が太ももに触れ、ゆっくりと上に登っていく。下着のゴムを押し広げるように、ひんやりとした指が入ってきた。

「濡れてる」

吐息を感じるくらい近くで囁かれれば、もう私に為す術はないのだ。お人形のように大人しく、されるがままになる。花宮はそんな私を見て、それはそれは満足そうに笑うのだった。
秋風は私の外れかけたリボンとずり落ちそうなスカートを撫でて吹き抜けていく。外で制服を脱ぐのも寒い季節になってきた。





130923
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テーマ「人外ファンタジー」
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