はー、と大袈裟な溜め息が静かな部屋に響いた。骨の浮いた背中を私に向けて、蛍はベッドに腰掛けている。丸まったティッシュの塊がひとつ、ふたつと、くずかごに吸い込まれていく。

「あーあ、また無駄な体力使った」
「…それはご苦労さま」

蛍は潔癖のきらいがあるらしく、いつも汗をかくとすぐシャワーを浴びに行くのだけど、今日はそのまま私の隣に寝転んだ。よっぽど疲れが溜まってるのかもしれない。横になるとすぐ眠そうに眼を細めた。

「嫌なんだよね。セックスなんて疲れるだけじゃん」

あれだけ私のことを好き勝手しておいて、何を言うんだろうか。同級生に比べれば随分淡白に見える彼だけど、そこはやはり高校生。それなりに欲もあるようで、週に何度かのお家デートの日は決まってこういうことになる。

「……」
「…なに」
「別に」

抗議の視線を送ってみたが蛍は気にも留めず、枕を寝やすい形に潰し始めた。

「じゃーオヤスミ」
「え、寝るの」
「寝ないの?」

なかなか枕がしっくりこないようで、何度も枕の上で頭をころころしながら蛍は面倒くさそうに眉を顰めた。

「もっとあるじゃん。ほら、甘いピロートーク」
「僕は眠いんだけど」
「見ればわかるよ」
「ん。おやすみ」
「ちょっと!」
「あーもう腕引っ張んないで!」
「私はもっと愛情を感じたいのー」

横に伸ばした腕に頭を乗せて、無理矢理だけど腕枕に成功した。口では文句を言うけど完全に拒絶しないのが蛍の甘い所だと思う。

「私のどこが好きーとかさ、そういう話をしたいわけ」
「えー別に…」
「ほらいっぱいあるでしょ。私の好きなとこ」
「うーん、そうだね」

取り合ってくれないとハナから諦めていたけど、予想に反して考える素振りを見せてくれた。真面目に答えられたらそれはそれで照れてしまうのだけど、なんて考えていたら

「僕に会うまで処女だったとこ?」
「……ナニソレ」

そんなこと考えてたなんて。どう考えても、彼女の好きな所と言われて一番目に出てくる回答ではない。これが彼なりの照れ隠しというなら、私は彼の人間性を全力で疑う。

「あ、それそれ」
「は?」
「その顔も。けっこう好きだよ、馬鹿っぽくて。あはは」

呆然と開いた口が更に開いた。信じられない。なんで私はこんな奴を好きになってしまったのだろう。
さっきまでの眠気が嘘みたいに蛍はけらけら笑った。女の子といてこんなに楽しそうなのは私を馬鹿にしてるときだけかもしれない。でもこんな特別全然嬉しくない。蛍がこの前寝言で私の名前を呼んで手を握ってきたこと、多少脚色を加えて影山くんあたりに話してやろうと思う。



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