『ドア開かへん』
酷い熱で布団に突っ伏していたら電話が掛かってきた。御堂筋だった。
「開くわけないじゃん…」
『早よ』
「……」
頭痛いし、鼻水は止まらないし、熱で頭は朦朧としている。ふらふらになりながらやっとのこと玄関まで行き、鍵を開けドアチェーンを外す。
「遅い」
立ってるのがやっとの私を押しのけて、御堂筋はずんずん部屋に入ってきた。勝手にベッドにもたれかかり、「相変わらずきったない部屋や〜」と好き勝手言ってる。
「……」
「寝たら?」
「…や、寝るけどさ」
「なに突っ立ってるん」
いつもしてるみたいに、御堂筋はつまらなそうに携帯を弄り始めた。ポカリとか風邪薬とか買って来てくれたかと思いきや、まさかの手ぶらに驚きを隠せない。ほんとに何しに来たんだこいつ。
「アホやなーナマエちゃんは。なんでこんな暑いのに風邪引くん」
「うるさいな…。ていうか、お見舞い来たんじゃないの」
布団に倒れ込むと、御堂筋はぎょろりとこっちを向いた。
「きっも。僕がそんなことする思う?」
「…そうだね」
答えながら、本格的に体が辛くなってきた。嫌味たらしく言い返すのもままならない。苦しくて涙が滲んでくる。
「ナマエちゃん」
「……」
何か言おうと思ってもひゅーひゅー喉が鳴るだけで、上手く言葉が出ない。私の返事がないとわかると御堂筋は立ち上がった。
つまらないから帰るのかもしれない。戸締りできそうもないから、できれば今出て行くのはやめてほしいんだけど。
「ナマエちゃん、顔上げ」
「ん…」
前髪を雑に掻き分けられ、額が急に冷たくなった。もしかして冷えピタを貼られたのか。ぼんやりする視界の中央で、ぎょろぎょろしたふたつの目がこっちを見てる。
「ほんまアホやわ」
呆れたように呟いて、御堂筋は背を向けた。
「午後の部活始まるまでいてやるわ」
何もする気ないくせに偉そうに言った。でもそれだけで、なんだか心強くなるのはなんでだろう。
素直じゃない奴だけど、私が咳をする度に慌てて振り返るのは、ちょっと可愛いと思った。
140608