キスの合間に漏れる息が熱を帯びてきた。
お互いの口内を掻き回す音が、不気味なほど静かな廃墟の壁に反響する。
忍野は一度唇を離すと、私の着ていたニットを一気に脱がせた。急に外気に晒された肌がひやっと冷えるのを感じた。


「今日は黒かい。気合い入ってるね」


忍野はブラジャーに付いた薄いレースを指でなぞると、楽しそうに笑った。








∴∵∴









「っあ、…は」


ぎしぎしと古めかしいソファが音を立てる。どこから拾ってきたかわからないようなそれは、たしか忍野と私がこういう関係になってから、この部屋に仲間入りした。さすがに勉強机を並べただけのベッドでは事を致せないと判断したらしい。

忍野は緩急をつけながら、時々休憩を挟みつつ、腰を進めて、私の表情や声が変わっていく様を眺めている。普段の饒舌ぶりと反して、行為の最中に忍野が口を開くことはほとんどない。


「よく喘ぐねぇ」


せいぜい軽口を叩いて私の反応を楽しむくらいだ。
規則的に身体を揺らしながら私の頬を撫でる忍野の手が段々と熱くなってきた。時折息を詰まらせるように顔を引き攣らせては、ごまかすようにキスしてくる。こうなってくると彼が感じてる証拠だ。
私の唇に吹きかかる欲をはらんだ吐息に、嫌でも気持ちが高陽するのがわかる。少しずつ辛そうになっていく表情の堪らない色香に、私の方がやられてしまいそうだ。

忍野が私の脚を抱え直し倒れ込む。より深い所で繋がって下腹のあたりが疼いた。
さらに耳や頬ばかりを撫でていた右手が胸元をまさぐれば、私の脚は震えて呼吸も一段と浅いものになっていく。
そしてそれに気づいた忍野が一層強く揺さぶると、私は身体を震わせながら高い嬌声をあげた。


ぐったりする私と対照的にまだ臨戦体勢の忍野は、半分くらい抜けかかったそれを再度奥まで挿し込み、私の顔の横に手をついた。
未だひくつく私の中で、それはどくりと脈打った。

彼は自分が感じているのを悟られるのがよっぽど嫌らしい。私が余韻で朦朧としているのをいいことに、ここぞとばかりに腰を打ち付ける。私の首筋に顔を埋め自分の表情をしっかり隠すと、やっとのこと彼も果てた。
忍野は、はー、と溜め息のように息を吐き出して私から退く。
床に転がる潰れかかったティッシュボックスを掴むと、そこから3、4枚引き抜いて処理し、ゴミをそのまま床に放った。いいのだろうか。


「…おしの、」


早速煙草に手を伸ばそうとする忍野に気怠い身体を預ける。鎖骨を指でなぞってみると、つつ、と汗の粒が流れた。


「汗すごい。珍しいね」
「そうかい?」
「うん、いつも余裕そうだから」
「そんなことないさ」


火の着いてない煙草を灰皿に戻しながら、ハハ、と余裕そうに笑う横顔が腹立たしい。


「僕だって、好きな子のあられもない姿を見たら欲情くらいする」


好きだなんて何とも薄っぺらい台詞を口にする忍野は、したり顔でそう言った。





130109
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