つやつやの髪の毛に潤った唇、化粧なんてしてないのに長く伸びた睫毛。どれをとっても申し分ない。溜め込んだ息をはー、と吐き出す。

「ずるいよなぁ。」
「ん?なにがよ。」
「こっちの話ー。」

興味なさそうにふーんと言って、細く繊細な指が雑誌のページをめくる。すべすべの白い肌に形の良い薄ピンクの爪。この手を独り占めできる子は幸せなんだろうなーなんて、やましい事を考えてしまった。可愛い女の子にムラムラする男子の気持ちが少しわかった気がした。美しいのは罪なんだ。
馬鹿なことを考えてると、その綺麗な手がどんどん近づいてきた。そして視界を塞い……痛。

「見すぎ。」

ぺち、と私のおでこが音を立てた。顔を上げると呆れ顔の玲央が私を見下ろしている。うーん。下からのアングルもなかなか。

「…その顔は何待ちなの?」
「別に何も待ってないけど。」
「なんなのよアンタは…。」
「うーん。強いて言うなら、見惚れてたのかな。」

我ながらけっこうすごいこと言ってる自覚はあった。でも本当のことだし、玲央はこういうの慣れてるだろうから、他の人に言うのと違って抵抗は全くない。

「はあぁ…」
「どうしたの?」
「アンタさぁ」
「……」
「よくそんな恥ずかしいこと言えるわね。」
「本当のことだよ。」
「馬鹿じゃないの。」
「あれ。玲央、照れてる?」

いつも飄々としていて、クラスの女子の熱の篭った視線も部活に差し入れに行くファンの子達も笑顔でかわしてるのに。私の知ってる大人でかっこいい玲央はどこにいったの?

「珍しい〜。」
「何言われても平気だとでも思った?」
「そういうイメージだったけど。」
「あたしだって照れるっつーの。」

可愛い一面を見てしまった。にまにまと緩む顔は抑えられそうもない。それに気づいたのか、玲央は顔をしかめた。

「それを言うならアンタもじゃない?取り乱した所とか見たことない。」
「えぇ、そうかな?取り乱したりとかはないけど…けっこう分かり易いほうだと思うよ?」
「そうかしら。」
「うん。」

すると雑誌を持っていた玲央の手がこちらに伸びてきた。すべすべの指が私の前髪を掻き分け、続いて額に柔らかな感触。ちゅ、とリップノイズがして、目の前に綺麗に浮き出た鎖骨が見えて、やっと何をされたか理解した。

「……」
「ほんとだ。分かり易ーい。」
「…れ、玲央のばか。」

真っ赤になってるであろう顔を両手で隠すと、けたけたと笑い声だけが聞こえる。

「さっき叩いちゃったから、おでこ。」
「別に…痛くなかったし…。」
「うん。こっち見て。」
「……」
「もう何もしないから。」

恐る恐る顔を覆っていた手を離す。至近距離で見た玲央の顔は、やっぱり悔しいくらいに綺麗だった。

「ナマエ、」

白い指が頬を滑る。 恥ずかしいのに目を逸らせないのは、私が誰よりもこの手を独り占めしたいって、気づいてしまったからかもしれない。



130513
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テーマ「人外ファンタジー」
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