「そうだねぇ。やっぱり可愛い子とセックスしてると“あぁ僕、生きてるなぁ”って感じするよね。」

白澤とは、元来こういう男だった。もちろんそれはナマエも知る所だったし、だから仕事以外では極力近づかないようにしていた。なのに何の因果がナマエは過去に一度だけ、この男と一夜を共にしたことがある。
若気の至り、現実からの逃避、言い様は色々あると思うが、このことは事実として、今も尚彼女に重くのしかかっている。あの日白澤が、失恋に泣くナマエを上手く口車に乗せて、心の隙間に入り込んで、慰めてあげるよ、なんて言って押し倒したあの日から。

「ナマエちゃんは不器用だから。」

白澤は言う。胸にぽっかり空いた穴を塞ぐ術も、悲鳴を上げる心に気づかないふりをする勇気も、彼女は持ち合わせていなかった。

「もっと楽に生きたらいいんじゃない。人生一度しかないんだし。」

朝日射し込むベッドの上で、白澤は言った。そんなこと言われて気が楽になる訳はなかった。楽しかった彼との思い出はただの思い出になってしまったし、取り返しのつかない現実が裸で隣に横たわっている。

「これっきりにしましょう。」

部屋を出るとき、ナマエは白澤に言った。白澤はいつもの顔で「淋しいなぁ」と笑った。

「また来てよ。薬でも買いに。」
「そうします。」

ナマエがもう店に来ないだろうことを白澤は知っていた。それは彼の神通力をもってしなくても、わかることだった。

「あと何百年待てばいいのかなぁ。」

背中を見送る白澤は、ちょっとだけ淋しそうに笑った。ナマエは一度も振り返らなかった。



130405
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