「おはよ。」

浅い眠りから覚め、未だ覚醒しない頭を現実に引き戻してくれたのは、耳に馴染んだ甘い声だった。カーテンから漏れる朝日に目が眩み、柔らかなシーツの感覚を全身に感じる。視覚から触覚へ、だんだん意識が全身に回ってきた。

「おはよう。早いね。」
「うん。目が覚めちゃったからさ。」

優しい笑顔は変わらないのに、寝癖の髪と少し眠そうに垂れた目尻は寝起きしか見れない、貴重な姿だ。

「ナマエちゃんの寝顔ずっと見てたんだー。」
「やだ、やめてよ。」
「全然飽きなかったよ。可愛いんだもん。」

まるで壊れものに触れるように、指先が髪を撫でる。くすぐったくて身をよじるとふざけたように頬や額に何度も口付けが落とされる。
脇から差し込まれた腕が背中に回って、身体がぐいと引き寄せられた。顔に似合わずしっかりと筋肉が付いた固い腕は、今まで何人の女の子を腕枕してきたんだろうと考えさせられてしまう。

「ナマエちゃん好きだなぁ。」
「....ふぅん。」
「なにその反応ー。」
「私のどこが好きなの。」
「どこって、全部だよぉ。」

へらりと眉を下げて、私の顔にかかった髪を耳に掛けた。

「意地っ張りなところも気分屋なところも。あと、たまにすっごく甘えてくれるじゃない。堪らないよねぇ。」

太ももを撫でていた手が、ゆっくりと上へと登って行く。感触を楽しむようにお尻の辺りを行き来した後、指の腹が背中の真ん中をなぞった。触れるか触れないかの触り方に、思わず身体が仰け反ってしまった。

「っひゃ!」
「あとは、背中弱いところも。好き。」
「....ばか。」
「かーわいー。」

けらけらと笑う白澤さまに顔が熱くなる。誤魔化すように、目の前にある胸に飛び込んで額をぐりぐりと押し付けた。手の平で転がされているようで、どうも良い気がしない。下手に出ているようでさりげなく主導権は握るこの人のやり方は、本当にずるいと思う。
もぞもぞ身じろぎして、脚の間に太ももを滑り込ませた。そのとき触れた熱い身体の一部分。一瞬の沈黙の後、お互い顔を見合わせる。

「....えっと、ごめんね。朝はいつもこうだから。ほっとけばおさまるし...。」
「.....。」

少し照れたような顔をして頬を掻く白澤さま。10代でもあるまいし、と呆れる気持ちと、ほんの少しの加虐心。やられっぱなしは私だって癪だ。

「ナマエちゃん...?」

背中に回った腕をすり抜けて、私は薄く筋肉の付いたお腹に跨がった。普段彼を見下ろすことなんてないから、見慣れない眺めにわくわくと気持ちが高ぶる。

「楽にしてあげる。」
「えっ、嘘、」
「何もしないでいいよ。寝てればいいから。」
「ちょっとどういう風の吹き回し?僕興奮しちゃう。」

投げ出した両脚の間にうずくまり、固くなり始めたそこにそっと指を這わせる。

「たまには必死な顔が見たいの。」
「何言ってるの、いつも必死だよ〜。あ、ナマエちゃんもっと必死だから気づかないのか。」

この後に及んでまだ余裕を見せる彼にむっとして、手の力を強くした。だんだんと芯を持ち始める変化に達成感を覚えて、先を擦ったり、反対の手も使ってせっせと扱く。にやにやと緩んだ顔はそのままに、白澤さまは大きく息を吐いて髪をかきあげた。

「こんなのどこで覚えてきたんだか。妬けちゃうなぁ。」
「それあなたが言うの。」

手の中で熱くなるそれに、そろそろかな、と手を止めた。自分の身体も軽く慣らして、上に跨がる。粘膜が擦れ合う感覚に腰が引けてしまいそうになるけど、抵抗に逆らって腰を落とすと、なんとか奥まで飲み込むことができた。気づかれないよう小さく息を吐いてから少しずつ腰を動かしていく。想像以上の圧迫感に情けない声が出てしまいそうだ。

「大丈夫?手伝おうかー?」
「っん…だめ、動かないで。」
「はいはーい。」

起き上がろうとするのを制して、にやつく顔を睨む。こんな無様な姿で主導権も何もない気がするが、私の意地だ。慣れない体位のせいもあって思うように動けないのがもどかしい。それでも快楽を促そうと、ぎこちなく腰を動かす。

「そろそろいーい?」
「っ、はぁ...。」
「僕もう限界。」

その言葉と共に、視界がぐらりと反転した。挿入する角度が変わって、その刺激でまた恥ずかしい声が出てしまう。後ろに倒れた拍子に上がった脚を掴まれて、上から体重をかけられる。

「っあ、やだ…!」
「やじゃないでしょ。散々好き勝手しといて。」

耳元で熱っぽい声で囁くから下腹の辺りがきゅんと疼いた。恥ずかしさと気持ち良さで訳が分からなくなりそうだ。

「っ…はぁ、でも僕もあんま持たないかも。」

もっと脚開いて、と太ももに手が添えられる。熱に浮かされた白澤さまを見上げて、もうどうにでもしてと目を閉じた。



130314
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