眩しいくらいに明るい朝日が、真っ白なシーツに反射する。隣で毛布に包まる花宮は目を瞑っていたけど、だいぶ前から起きていたみたいだった。私が寝返りを打ったのに気づいてゆっくりと花宮の目も開かれる。
「...起きた?」
昨日まで、私たちは友達だった。
花宮とは大学入学のときに知り合い、かれこれ一年の付き合いになる。知り合った当初から特定の彼女を作らないでふらふらしていて、会う度に毛色の違う様々な女の子を連れていた。各クラスにセフレがいるとか、処女キラーだとか、あまり良い噂は聞かなかった。それなのになぜ友達を続けているかというと、親しくなると実は良い奴で...とかそんなことは微塵もなく、噂に違わず、むしろ噂以上に最低のクズ野郎だったんだけど。でも成績だけは信じられないほど優秀で、テスト期間やレポート提出時に幾度となく助けられた恩があったりする。性根は腐ってるけど、一度懐に入ってしまえば案外面倒見が良いのだ。
あと、女関係の話は、自分から一切話さない。だから噂が真実なのかは、本当のところわからない。普段の言動を見るに恐らく半分以上は本当なのだろうけど、そういう下世話な話を自慢げに話さない所も、数少ないこいつの長所だった。
そんな奴だから、今まで手を出されないほうが不思議だったのかもしれない。端から見ればいつどうなってもおかしくない状況に、私たちはあった。
その日も、二人っきりで飲みに行った時点で、ある程度の覚悟はするべきだったのだ。
「やっちゃったね」
「あぁ」
欠伸混じりの横顔は、どこかいつもと違って見える。
「もう前みたいには戻れないのかな」
「どーだろ。お前次第じゃね」
「花宮は気にしなそうだもんね、こういうの」
お酒の勢いとはいえ、誘いに乗ってしまった私にも非はある。後悔したってもう遅い。
「どうせいつも居る取り巻きの子たちにも、手ぇ出してるんでしょ」
「...全員ではないよ」
「うわ」
「顔がマシなのと、胸でかいのだけな」
「その情報、激しく要らないんだけど」
「あれさ、デカさと感度って比例しねぇのな」
「それはもっと要らない」
何がおかしいのか、花宮はくすくす笑い始めた。つくづくこいつは女の敵だと思う。
「最低だね」
「今更だろ」
「うん。知ってた」
そう言うと、花宮がこっちに寝返りを打った。
「ん」
毛布で隠れていた肩とか鎖骨の辺りが露わになって、ちょっと照れくさくなった。
「....なに」
「抱き締めてやろうかと思って」
「なんで」
「俺はアフターケアも怠らないんだよ」
「それがリピーターを増やすコツ?」
「まぁな」
言われるまま大人しく腕の中に入ると、案外収まりが良い。ずっとスポーツをやってただけあって程よく付いた筋肉は男らしいし、優しく腰に回された腕の感触も悪くない。
「ねえ、花宮」
「なに」
「他の子とセックスするときも、そうやっていい子ちゃんのフリしてるの」
腰に回った腕が、ぴく、と強張った。
「それとも、昨夜みたいに激しいの」
半開きになった唇に、そっと指を這わす。眠そうだった花宮の目が大きく開かれた。
「教えてよ」
唇の端を上げて上目遣いすれば、花宮はそれはそれは興奮したようでがばっと覆いかぶさってきた。近づく唇を片手で制して私は花宮、と呼ぶ。
生憎私は、花宮と違って頭が堅いから、一晩過ごした相手を普通の友達としては見れない。もう、戻れないんだよ。
「もっかいしたいなら、ちゃんと私だけ見て」
それなら、進む道はひとつしかないじゃない。
140130