「ねぇねぇ玲央、今日ハロウィンって知ってた?」
屋上のフェンスに寄り掛かる玲央は、私の言葉に顔をあげた。
「あぁ、そういえば駅前でお菓子配ってたわね」
「良い日だよね。お菓子もらい放題」
まだ食べるつもりなの、と食べかけのお弁当を横目に呆れられたけど、甘いものは別腹って言うじゃない。今日は朝からクラスでお菓子を交換したり、恋人にお菓子をせがんだり、学校全体が浮足立っていた。バレンタインみたいに変な感情が入らないぶん、みんなが素直に楽しめてる気がする。
「てことで、トリックオアトリート」
「……」
「ちょっとーノリ悪いー」
玲央はお昼ご飯のサラダをつつきながら、顔をしかめた。
「そんなに言うならなんかないの?魔女のコスプレとか」
「しないよ。恥ずかしい」
「なによ、テンション上がんないわね」
「そこら辺の男子みたいなこと言わないでよ…」
「私もそこら辺の男子よ」
渋々、といった感じで玲央は制服のポケットを探って、何かを取り出した。一口大のホワイトチョコだ。小さいながら可愛いらしいラッピングがされていて、乙女心がよくわかってるなと思う。でも、
「それ駅前で配ってたやつじゃん」
「これしかないわ」
「…じゃあいいよそれで。はい、トリックオアトリート」
せっかくのハロウィンにそこらで配ってたお菓子なんて、なんとも味気ないけど、貰えるものは貰っておく主義。それにチョコレートは好きだし。
私が大人しくトリートを待っていると、玲央は手の平でホワイトチョコを転がして、ちょっと考えるような顔をした。
「…これって、両方じゃだめなの?」
「どういうこと」
「トリックと、トリート、両方」
そう言うと小さなチョコを口に含んで、そのまま私に口づけた。
頭が状況を理解するのを待たず、溶けたチョコの甘さが舌を伝って口全体に広がっていく。捩込まれた甘さと、舌の熱さに頭がくらくらする。
そして小さなチョコが全て溶け切ると、ゆっくりと唇が離れていった。
「いたずら、しちゃった」
真っ赤になってるであろう私を見下ろして、この余裕の表情。
「ば、ばか。私がされちゃだめじゃん」
「あら、ごめんなさいね」
「誰か来たらどうするのよ」
「それは大丈夫」
玲央は何事もなかったかのように私から離れて、またサラダを食べ始めた。
「屋上の鍵閉めといたから」
こいつ、最初からこのつもりだったな。
131031