私には、最近気になる人がいる。いつもうちに荷物を届けに来てくれる配達員さんだ。無口だけれど、毎回指定した時間きっちりにインターホンを鳴らし淡々と仕事をこなす姿は思わず見入ってしまうほど。私がサインを書いている間ドアを抑える腕の逞しさにどきどきしたり、立ち去る間際の小さな会釈が頭から離れなかったり、彼のことなど何も知らないのに、私の中での彼は日に日に大きくなっていった。それは授業中だったり、下校の電車の中だったり、はたまたバイト先の先輩に怒られてる最中だったり、思春期の私の頭の中はあの人のことで埋めつくされてしまうのだ。

いつか声が聞いてみたい、目を見てお喋りしてみたい、できたら仲良くなりたい、なんて。欲求は高まるばかりで、でも何のきっかけのないまま、季節は夏から秋になろうとしていた。





「げ、また増えてんじゃん」



うちに遊びに来た友達が、廊下の惨状を見て顔をしかめた。

「ダンボールハウスでも作る気?」

廊下に溢れる空のダンボール箱を前に、彼女の私を見る目は冷たい。

「そんなわけないでしょ。私は恋する乙女だよ」
「恋する乙女は部屋にダンボールなんか溜め込みません」

もちろん原因はあの配達員のお兄さん。彼がうちの担当になってから、私の通販利用量が飛躍的に増加した。今まで近所のスーパーで買っていたパックの野菜ジュースもネットで箱買いするようになったし、実家から送られてきていたお米も断って、ネット通販にするようにした。
我ながら単純だとは思う。でも、仕方ない。恋する乙女は盲目なのである。

「だって会うきっかけとか、ないし。こうするしかないんだよ」
「話しかければいいのに。こんなに頻繁に会ってんだから」
「…なんて」
「良い筋肉ですね〜!彼女いますか?」
「……」

溜め息まじりに嘲笑したら、ダンボールの破片が頭に飛んできた。痛い。







しかし、神様は私を見捨てはしなかった。チャンスというのは忘れた頃にやってくるものである。
8月を過ぎたある日のこと、玄関のチャイムに呼ばれいつものようにドアを開けると、お米が入っているだろう箱を持ったお兄さんが立っていた。半分くらい開いたドアを肩で押さえて、お兄さんはポケットから伝票を取り出そうとした。その時だった。

片手で支えられていた箱が重力に従って手の中を滑ったのだ。
なんとか落としはしなかったものの、二人共が一瞬、あっ、という顔をした。

「わ、…っと、すいません」

喋った。お兄さんが喋ったのである。

「大丈夫ですか」

思わず手伝おうと箱に手を伸ばしたけど、大丈夫です、すいません、と私を制して玄関に重いお米を置いてくれた。

「ごめんなさい。いつも重くて」
「いえ、平気です。鍛えてるので」

そしてお兄さんは少し照れて、へにゃ、と笑った。俯きがちな顔しか見たことがなかった私は、ここで初めて彼と目が合った。
どうしよう、すごく可愛い。
私が固まっていると、お兄さんが遠慮がちにボールペンを差し出してきて、サインがあることを思い出す。
震える手で伝票の隅に苗字を書いたら、普段以上に不格好な文字になってしまって、すごく書き直したかった。嫌々ボールペンを返すと、お兄さんはいつものように首をちょっとだけ動かして会釈してドアの隙間から消えていった。

「うわ…声聞いちゃった…」

放心状態でしばらく玄関から動けない私が次に取った行動は、アマゾンでこしひかりを注文することだった。あとは今度会うときまでに可愛い字の書きかたを練習しなければ。恋する乙女はしたたかなのである。






HAPPY BIRTHDAY!
130909
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