今日は朝から最悪だった。携帯がマナーモードになってたせいで目覚ましが鳴らず、朝は寝坊。寝癖を直す間もなく教室に着くと、苛立ちに任せてマナーモードを解除した携帯が、大音量でメールの着信を伝えた。ホームルーム直前の静かな教室に鳴り響いた、最近流行りのバンドのボーカルに、一斉に振り返るクラスメート達。今思い出しても寒気がする。

極めつけは放課後だ。慌てて家を出たせいで、傘を持ってくるのを忘れた。夕方雨降るって、昨日から知ってたのに。
重い色の空を見上げながら、今日三位だったのになぁ…と、占いの順位だけをしっかりと覚えてる自分に呆れた。

「あ、ミョウジじゃん」

立ち尽くす私に後ろから掛けられた声。振り返ると、ビニール傘を中途半端に開いたままこっちを見る宮地先輩がいた。

「先輩!」
「なに、忘れた感じ?」
「…忘れた感じです」

会いたいけど、会いたくなかった。普段帰る時間がカブることなんてないのに、なんで今日に限って、と恨めしくなる。雨で髪はごわごわだし、朝メイクしてくる時間なんてなかったし…。

「ん」
「え」
「入ってけば。オレも家の方向一緒だし」

ぶっきらぼうに傘を差し出す姿が先輩らしくて、思わずにやけた。「なにへらへらしてんだ」と怒られたけど。でもなんだかんだ言って宮地先輩は優しいってことを、私は知っている。

「先輩と相合い傘かー」
「嫌なら入れてやんねー」
「うそうそ、入れてください!」

しょうがねぇなーって嫌そうなフリして見せるけど、見捨てるようなことは絶対しない。口調は乱暴だけど、困ったときは必ず助けてくれる。

「…先輩ってもてるでしょ」

私と反対側の肩がびしょ濡れなのも、先輩の家がほんとは反対方向だってことも、気づいたけど、黙っていた。そういう優しさは黙って受け取るもんだって、前に先輩が言ってたから。私は先生の言うことは聞かなくても、先輩の言うことはちゃんと聞くんだ。

「うっせ。いいから行くぞ」
「あー待ってください。私が持ちます」

速足になった先輩の裾を引っ張って、ビニール傘を奪い取った。私が持った途端、一気に天井が低くなって先輩は窮屈そうだった。

「お前、ちっちぇー」
「先輩がでかすぎなんですよ」
「まだまだ伸びんぞー」
「困ります。傘届かなくなっちゃいますよ」
「また相合い傘するつもりかよ」
「なんかまた傘忘れそうな気がするんです」
「なんだそれ」

ははっと笑う宮地先輩の横顔に、胸の辺りがきゅっとなる。
そういえば、今日のラッキーアイテムがビニール傘だったことを思い出した。あながち、間違ってないかもしれない。
水溜まりに映った二人分の影を見下ろしながら、寝坊した朝の自分にちょっとだけ感謝した。




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