わけのわからない公式を頭にたたきこんで、ひたすらノートに問題を解いていく。繰り返される手の動きはもはや作業と化していた。明日の一限にある数学の小テストのために、今私は勉強合宿の真っ最中だった。

「ねーねーナマエちん」

もう一夜漬けも辞さない覚悟だ。試験範囲の一番最初まで遡り、丁寧に数字を追っていく。

「ナマエちんってば」

今まで真面目に勉強しなかった私が悪いのはわかってる。でも時計を見れば深夜2時。さすがに瞼が重くなってきた。

「ナマエー無視すんなしー」
「……」

ずしり。瞼だけじゃなく、背中まで重くなった。誰のせいかなんて振り返らずともわかる。

「敦、重い」

のしかかった重みを叩くと、ノートに落ちた影がもぞもぞ動いた。

「いって」
「乗っかんないでよ」

勉強合宿、と銘打ってはいたものの、ほぼ私が勉強する後ろで敦がお菓子食べてるか、寝てるかだった。ずっとほっぽってられたことにご立腹なこの部屋の主は、なかなか離れてくれる気配がない。無視して続けようとも思ったけど、これはとても無視できる重量じゃない。敦の本気を甘くみてた。

「俺、けっこうガマンしたよ。もういいでしょ?」
「よくないよ」
「いーじゃん、ちょっとだけー」
「いいから勉強、」

ごち。おでこがノートとこんにちはした。痛い。痛いし暗い。ノートが見えない。ついでに明日も見えない。

「ねぇーどうしてもだめー?」
「…時計見てみなよ。こんな時間になんて、だめに決まってるでしょ」
「こんな時間だからこそじゃん」
「でも…」
「もう俺、我慢の限界」
「……」
「ナマエちんもさ、そろそろ欲しくなってきたんじゃないの」

机に突っ伏した私を引っ張り起こして、敦は意地悪に笑った。その顔に見つめられたら、私はへにゃへにゃと力が抜けて、何でも言うことを聞いてしまいたくなるのだ。つくづく、彼はねだるのがうまいと思う。それはもう、悔しいほどに。

「…じゃあ、ちょっとだけ、だからね」
「うん」
「明日のテストに響かないようにしてよ」
「わかってるし」
「加減、してね」
「ん」

敦の手が私の腰に伸びてくる。私はもう止めることはしない。覚悟を決めて目を閉じた。



「…じゃ、いただきます」



伸びてきた腕は私を通り過ぎて、背中の後ろに隠していたビニール袋をわしづかんだ。

「私めんたい味ね」
「わかってる。はい」

言わずもがな、中身は私たちが大好きな駄菓子。深夜にお菓子とか女子的にどうなのって感じだけど、空腹の辛さと敦の巧みな誘惑には勝てない。

「やっぱまいう棒はコンポタだよね〜」
「何言ってんの。めんたいだよ」

ノートに食べかすをこぼしまくる敦を見て見ぬふりして、私はまいう棒を頬張った。テストも私の体重も、もうどうにでもなればいい。




131009
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