見慣れた三年生の廊下を抜けて、ほとんど使われることがない西側の階段を最上階まで昇ると見えてくる古びた扉。開ける度に、自分が今壊してしまったのでは、と思わず慌ててしまう派手な音を立てその戸は開く。
眼下に広がるグラウンドに、頭の上には吸い込まれそうなほど青い空。
振り返った給水タンクの上にひらひらとなびく薄茶色い髪を見つけて、しめたと思った。

「サボリ魔みっけ」

七段くらいあるハシゴをニ段飛ばしで駆け上がると、予想通りの人が予想通りの体勢で予想通りにそこにいた。

「みっかっちゃったー」

変なアイマスクをしてうたた寝していたそいつは、大して驚きもせず寝返りを打った。

「いないから呼びに来たんだけど」
「そりゃご苦労なこって」
「次体育だよ。出ないの」
「あー。こっから女子の透けブラ眺めてるわ」
「視力いいね」
「そこ?」

私が給水タンクに完全に登り切ると、総悟はたいそう面倒そうにアイマスクを外した。
グラウンドには、早く着替えを済ませた生徒たちが集まってきている。ここに立ってたらバレるかもしれない。

「お」
「なに」
「グレーの水玉」
「…うわ、さいてい」
「お前が勝手に見せたんだろ」
「慰謝料」
「いくらだよ」
「自販のリプトン」
「やっすいな」

スカートを押さえて慎重にしゃがむと、総悟は起き上がって私の隣に胡座をかいた。

「なら2リットルの買ってくるからもっと見せろ」
「2リットルかぁ…」
「揺らいでんじゃねーよ」

ぱし、と私の頭を叩いたと思ったら、総悟はそのまま髪を乱暴に撫で回した。強風によりもともと乱れていた私の髪の毛は、取り返しがつかないくらいにぐちゃぐちゃになった。
何か文句でも言おうとしたのに、次の瞬間突然唇に触れた感触に、私は黙るしかなかった。しかもくっついた唇は中々離れてくれなくて、体中が酸素を求めた。苦しい。

「っは、…長いし」
「最近してねぇじゃん」
「そうだね」
「だからパンツ見せろよ」
「いやだよ」
「じゃあパンツ脱げ」
「うるさいよ童貞」
「童貞なめんな!」
「いや違うでしょ」

言い返すのを止めた総悟は、諦めたかと思いきや、私のブレザーに付いたリボンを外し始めた。ワイシャツの第三ボタンに差し掛かったところで私は、総悟の期待に満ち溢れた左手を制止した。

「それはだめ」
「ちっ」
「学校はだめだよ」
「じゃあお前んち行ってい?」
「今日お父さんいるけど」
「……」
「……」
「…俺んち来る?」
「行く」

むらむらしてる総悟を見てたら私まで気分が盛り上がってしまったので、さっき振り払った総悟の左手に自分のを絡ませて、今度は私からキスをした。ミイラ取りがなんとかとはこのことだ。
もっと色々したいけど、それは5時間目の体育を済ませてから。
目を閉じる直前視界に映った空は、やっぱり青かった。



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