徹夜明けというのは何かと判断力が鈍るもの。それが何日も続くとなれば尚更だ。
激務に追われる真撰組で三徹なんてザラだが、さすがの俺も、四日連続は久しぶりだった。
朦朧とする頭に、言うことを聞かない手足。部下の尻拭いやら上司のフォローに追われ、気付くと朝日が昇っている四日間だった。



…なんて御託並べたところで現状はどうにもならないわけで。
隣に感じる人肌に、どっと後悔が押し寄せてくる。

「…おいナマエ、起きろ」
「ん〜」

俺の気も知らないで気持ち良さそうに寝こけているナマエは、俺同様、何も身につけてない姿。
昨日深夜に呼び出して、有無を言わさず事に及んでしまった罪悪感から、無理矢理起こす気にもなれない。

しかしここは屯所。まだ時間が早いとはいえ、他の奴らが起き出す前に、この思いっ切り事後の雰囲気だけは何とかしなければならない。
とりあえず自分だけでも着替えは済ませておこうと、怠さの残る身体をおして立ち上がった。
その時だった。

「土方さーん。起きてやすかー」

襖一枚隔てた向こうから、いつもならこんな時間に起きてるはずのない総悟の声が。
まずい。なんで今来るんだよ。

「開けますぜー」

素早く寝巻を羽織って、脱ぎ散らかされたナマエの着物やら諸々を、掛け布団の中に押し込んだ。
と、ほぼ同時に無遠慮に襖が開け放たれた。

「失礼しまーす、調書の確認お願いしまさァ」
「お、おう。今日は早いな」

果たして自然に対応できてるだろうか。
俺の動揺なんて知りもしない総悟は(というか知られたら困る)、書類を手渡しても尚出ていく気配はない。
人の嫌がる顔を人生の糧にしてるようなこいつのことだ。この事態を知られたら最後、一日と待たずに屯所中に噂が広がるだろう。俺がボロを出す前になんとかお帰り願わないといけない。

「あー、俺確認しとくから。部屋戻ってていいぞ」
「いえ、すぐ終わるだろうから待ってますぜ」

なんで今日に限ってそんな良い子なんだよ、ふざけんな。背後の布団の中で熟睡中のナマエがいつ動き出すとも知れないこの状況、書類の文字なんか正直頭に入らない。

「土方さん、冷や汗がすごいですぜ。大丈夫ですか」
「は?何言ってんだよ。全然そんなことねぇよ、全然」
「悩みがあるなら聞きますよ。なんでも言ってくだせェ」
「だから何もねぇって、」
「白レースの……紐パン?」
「っ!」

ばっと振り返ると、ナマエの下着が掛け布団を飛び出て、畳の上に転がっていた。
総悟が入ってくるまでの僅かな時間では隠しきれなかったようだ。どうしよう、ちょっと泣きそう。

「じゃー俺はこれで」

俺から書類を引ったくると、総悟は僅かに口角を上げながら立ち去る姿勢を見せる。

「待て、総悟」
「なんですかィ。俺だって忙しいんですけど」
「…焼き肉、食いたくねぇか」

見られたからには仕方ない。山崎辺りなら軽く絞めときゃ口止めにもなろうが、こいつにそれが通用するとは思えない。

「叙々苑の特選カルビ焼なら」
「なっ…!お前調子乗ってんじゃ、」
「え〜なんだっけな〜、副長のお気に入りはぁーサガミオリジナルのー0.02o?」

しまい忘れた避妊具の箱が視界の隅にちらつく。
さぁ、どうすんの?とでも言うように、俺の顔を覗き込む総悟に殺意しか湧かない。
完全に足元見てやがる。
くそ、こんなことで俺がお前に屈するとでも。こんなことで、…



「…今日の夜でいいか」
「ごちそーさまでーす。ふくちょー太っ腹〜」

こういうとき、この男は本当に良い笑顔をするなと思う。
今にも高笑いでもしだすんじゃないかってほど踏ん反り返って俺を見下す総悟の、楽しそうな顔ったらない。

「サガミ良いですよね。俺も好きですよ」

じゃ、と俺の肩に手を置いて華麗に立ち去る総悟の背中を、ただただ見送ることしかできなかった。
かくして徹夜明けの俺の過ちは、己のプライドと、給料日直前の財布に大きな打撃を残していったのだった。めでたくねぇ。



130324
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