あのさ、俺は、君が一生表の世界を歩けなくなるよう画策することだって、君の一家を丸ごと社会的に貶めることだって、いとも簡単にできてしまうんだよね。それ位の力を持っているんだ。わかるかい?……その顔じゃ何もわかってないって感じだね、やれやれ。あぁっちょっと待って帰ろうとしないで。
…つまり、そんなことを簡単にやってのける程の知力、財力、権力を俺は掌握してるってことだよ。俺の気分ひとつで、君に天国を見せる事も地獄を見せる事もできるの。ここまでは理解できたね?
…これを踏まえた上で、だよ。


「君はどうしたい?」



――帰りたい。帰りたいです今すぐに。
放課後屋上に呼び出された私は戸惑っていた。
折原と名乗るその男は、フェンスに寄り掛かりながらこっちを見ている。
そういえば下の名前も言ってたけど忘れた。

「おかしいな聞こえてないのかな。君はどうしたいかって聞いてるんだけど。」
「えーと…?」
「放課後異性を屋上に呼び出すなんて、理由はひとつしかないでしょ」
「屋上の使い道がそこまで限定されてるとは知らなかったよ」
「何言ってるの。屋上は告白、教室はキス、保健室はセックスと相場が決まってるじゃない」
「すごく偏っているうえに色々間違ってると思うよ」

もしかしてこの人少女漫画読む人か。

「…で?君はどうしたいの」
「どうと言われても…」
「もう一度自分が置かれている状況を考えてみなよ。そしたら君が今どうすべきか、わかるよねぇ?」
「…きょ…脅迫…?」
「キョウハク…?あぁ、そうだよね。欲望というのは時に人を強迫観念に取り憑かれたとも言える行動に走らせてしまうものだ。肉欲、征服欲、独占欲…その点でいったら俺もまだまだ普通の人間だったってことかな、」


「……そう、君の前ではね」


折原くんは一度言葉を切ると、私を振り向き恍惚の表情で言い放った。
何に酔ってるのこの人。



「無論、どうするかは君の意志に任せるよ。選択する自由はある。…まぁ選択の余地があるかどうかは別問題だけどね」
「…」
「だからさ、今この瞬間に導き得る最善の決断をすべきだよ。君が」
「…何それ」
「なにか問題でも?」
「さっきから私、私ってさ、そうじゃなくて。折原くんは、私にどうしてほしいの?」
「…だから俺は言ったじゃない」
「どうゆうことよ」
「あぁもう、ここまで言ったらわかりなよ!」

私が率直な疑問をぶつけると、彼は急に語気を荒げた。
どうやら私は彼を怒らせてしまったらしい。どうも釈然としないが。

彼はイライラと額に手を宛てた。
これ以上刺激してはいけないので、私は黙って彼の気が済むのを待つことにした。足元の日に焼けたコンクリートに視線を落として、隙間に生い茂る青々とした雑草を眺めた。

「……だから…つまり、さ」

何とも歯切れの悪い口調で、彼が続けた。

「死にたくなければ、俺のことを好きになりなよ」

唐突な発言に思わず顔を上げると、そわそわと目を泳がせる折原くんが視界に入った。短めのさらさらとした黒髪から覗く耳は真っ赤になっている。
口から吐き出される恐ろしげな台詞とは裏腹に、その姿はどこにでもいる普通の高校生みたいだった。








訳:好きです付き合ってください
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