「明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
「…お願いします」
「ではナマエさん、今年の抱負は」
「えっ抱負?」
「はい」
「……」
「……」







間。








「…なんか総悟おかしくない?大丈夫?」
「わかんね 酔ってるかも」
「甘酒で!?いつももっと強いの飲んでるじゃん」
「ちょっとあちーから脱ぐわ」

もこもこと着膨れていた総悟が着ていたニットを脱ぐと、下からもう一枚薄いニットが顔を出した。これは確かに暑そう。
さらにその薄いニットも脱ぎ長袖のTシャツ一枚になると、寝転んで肩までこたつに潜り込んだ。
寒いならそこまで脱がなくてもいいのに。

「総悟、ねこみたい」
「ナマエはブタみたいー」
「どこがだよ言ってみなよ」
「おもち美味しいぶー!おしるこ美味しいぶー!」
「腹立つ!物マネが若干似てて腹立つ!」

けらけらと楽しそうに笑う総悟。すごく生き生きとしていやがる。
寝返りを打ってさらに深くこたつ布団に潜って、総悟は眠そうに欠伸をした。
たぶんもう半分くらい夢の中なんじゃないだろうか。向かいに座ってる私の位置からじゃ頭しか見えないけど。

「今何時」
「6時ちょっと前だよ」
「じゃあ30分だな。起こせよ」
「何かあるの」
「真撰組の新年会でさァ。どうせ飲んで食うだけだから遅れて行ってやる」
「あーあれかぁ。去年はからかわれるの嫌だからって死ぬ気で集合時間守ってたよね」
「あぁ?覚えてねーな」
「でも結局私の家に居たのバレて、原田さんに『女の家でうつつ抜かしてんな』って冷やかされてたね」
「…何で知ってんだよ」
「土方さんに聞いたよ。半笑いで教えてくれた」
「なに土方の野郎と話してんでィ」

さっきまで眠りに落ちる寸前だったはずの総悟ががばっと起き出した。すごい反射神経。

「あれれ?嫉妬ですか総悟くん」
「勘違いすんじゃねーや。奴の名前に不快感を感じただけでィ」

いらいらと手元のマグカップを弄ってごまかす仕草が、まるで嘘を付いてるときの子供だ。
土方さんのことになると途端に幼くなるところ、ちょっと可愛いと思ってるんだけど。怒られるから内緒だ。

「今年は早めに出れば大丈夫だよ。私起こすし」
「いや、つーか…」
「ん、一人で起きれる?」
「今年はお前も連れてくしな」
「えっ!?」

まるで毎年恒例のことのように言ってのける総悟とは対照的に、私は飛びのきそうな勢いで驚いた。

「ど、どうゆうこと…!」
「んー…新年のご挨拶?」
「私が?」
「うん」
「真撰組の皆さんに?」
「みんなってか…近藤さん?」
「あのゴリ…局長さん?」
「そうそう。あのゴリ…局長に」
「ノってくれてありがとう」
「どういたしまして」

自分の彼女とかを同僚にいじられるの、すごく嫌がるタイプだと思ってたから。だから本当に驚いた。

「なんで急に」
「近藤さんは俺にとって父親っつーか…家族みたいなもんだからな。一応顔くらい見せときてぇなって」
「私は嬉しい、けどさ。総悟また冷やかされちゃうよ」
「構わねぇよ」
「・・・」
「・・黙んなよ」
「いや、大人になったなぁと思って」
「俺は前から大人でさァ」

なんだか自分が総悟に認められた気がして舞い上がりそうになる。顔が綻ぶのも隠さず、こたつを出て総悟の隣に移動した。

「なんだよ、来んなよ」
「ふふ、総悟くん総悟くん」
「・・・」
「ちゅーして総悟くん」
「・・・なにお前キャラ変えたの。気持ちわりー」
「だって嬉しくて」
「それはよかったな。してやんないけど」
「なんでよー」
「もうすぐ行く時間だろ」
「えーキスだよ?一瞬でしょ」
「・・今したらそれだけじゃ終わんない」
「・・・」
「・・・」
「・・ぷっ!総悟もだいぶキャラ変わってるけど!」
「うるせー!」

総悟は恥ずかしさをごまかすように立ち上がり、掛けてあったジャケットやマフラーをがさがさやりだした。

「おら、行くぞそろそろ」
「あー待ってってば!」

とっとと玄関まで行ってしまった背中を追いかけ、コートとマフラー、ハンドバッグを持って家を出る。

「ねぇ、屯所まで手繋いで行こうか」
「・・・」
「冗談だよ」

総悟は街中で手を繋ぎたがらない。
でもこれは仕方のないこと。こういう職に就いていて顔も知れてる以上、公共の場で普通のカップルみたいなこともできないし、私もそれを理解しているつもりだ。

しかし今日は事情が違った。
断られたはずの、私が求めていた大きな手がこちらに差し出されたのだ。

「手、繋ぐんだろ」

ぶっきらぼうな、だけど彼なりの優しさが見える行動に思わず笑みがこぼれる。
差し出された手を握ると、掴んだ手をぐいっと引き寄せられた。予想外の行動に、バランスを崩して総悟の胸に飛び込むかたちになった。

「わっ、…!」

繋いでいない方の手が私の顎を撫で、上を向かせる。そして、ぱくっと下唇を食べるように口づけされた。

「隙ありー」
「っ…なにして…!」
「ナマエがぼーっとしてるからでさァ」

信じられない。こんなの私が知ってる総悟じゃない。
思い返してみれば今日は朝からおかしかった。もしかして新年を迎えたのを期に、違う人にすり替わったんじゃないだろうか。

「おきたさんやっぱり今日おかしいって」
「お前ももうすぐ沖田さんだろ」

恥ずかしげもなくそう言ってのける総悟は、やっぱり私の知ってる総悟じゃない。

「…まだ私プロポーズされてないよ」
「後ですげぇのしてやらァ」
「ほんと?」
「あーほんとほんと。お前なんかもうメロメロだぜ」
「メロメロかぁ…それは困ったな」
「なんでだよ」
「だってこれ以上メロメロになったら大変なことになるよ」
「ほーそれは見てみてぇ」

私の言葉に、総悟はくしゃっと笑った。普段澄ましてる癖に笑うと一瞬だけ柔らかくなるこの表情が、私は本当に好きだと思った。

「向こう着いたらすぐ近藤さんとこ行くぞ」
「うん」
「後になるとあの人脱ぎだすから」
「えっ脱ぐの?」
「まぁ今日は大丈夫だろ。お前連れてくって言っといたし」
「言ってたんだ…」
「泣かれたけどな」
「完全に娘を持つお父さんだね」
「あの人は俺のこといつまでもガキだと思ってんだよ」
「じゃあ総悟が立派になって嬉しいだろうね」
「にしても、連れてくのがこんなちんちくりんで忍びないな」
「そういうこと言う?」

総悟がまたへへっと笑った。
繋いだ手をきゅっと握ると、優しく握り返してくれる。そういえばこうやって二人で歩くのいつぶりだろう。すぐ屯所に着いてしまうのが勿体ない気がして私は歩みを遅くした。

「総悟」
「なに」
「手ぇあったかい。ねむい?」
「お前までガキ扱いすんじゃねー」
「ねぇ総悟ー」
「だからなんだよ」
「すきだよ」
「…………あーそう」
「ふふ」
「何笑ってんでィ。気色わりぃ」
「べっつにぃー」

笑い声に混ざる二人分の足音を聞きながら、暖かくて骨張った総悟の手をもう一度握り直した。









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