けたたましい携帯の着信音で目が覚めた。眠気まなこの私をウイスキーのきつい香りが襲ってくる。
最悪の寝覚めだ。

「頭痛…」

うっすら目を開くと、飛び込んできたのは程よく筋肉の付いた胸板。覚醒し切らない頭ながら、思わず口角が上がってしまった。
昨夜のことは全然覚えてないけど、たぶんヨシヒコ君が私の家に来て、飲んで、えっちして、そのまま寝ちゃって、といういつものパターンだと思う。全然、覚えてないんだけど。

「ヨシヒコくんー起きてよ〜」

名前を呼んで腕に絡み付く。もう!ぐっすり寝ちゃって可愛いんだから!

でも私自身もまだ意識はぼんやりしている。私は朝に弱いんだ。




・・・だから、私やヨシヒコ君の携帯はいつもマナーモードになっているってこととか、ヨシヒコ君はウイスキー嫌いなこととか、私が最愛の彼氏ヨシヒコ君に昨日フラれたこととか、思い出すのに時間がかかったのは全て、私が朝に弱いせいなんだ。

「もう〜早く起きないとチューしちゃうよ〜」

そう言って私は最愛の彼氏の愛しい顔を見上げた。
筈だった。


「・・・・・え?」


しかし隣にいたのは、寝ぼすけの愛しい彼氏でも何でもなく、全裸の沖田総悟だった。












…一度落ち着こう。
どうしてただの友達であるはずの沖田が私の隣で裸で寝ているんだ。とりあえず現実逃避をするために沖田に毛布を被せ視界から消した。これで問題ない。いや、問題自体は大アリだ。毛布に隠れ切らなかった薄茶色の髪が視界にちらついて、そしてだんだん覚醒してくる意識が、これはマズイと言っている。

とにかく昨日のことを思い出さねば。低血圧の頭を必死に働かせて考えた。
確か昨日ヨシヒコ君にフラれてやけ酒に走った私は、たまたま履歴の一番上にあった沖田に電話をかけた。居酒屋で沖田に愚痴りまくった後、カラオケで熱唱したのも覚えている。そのあとも何軒かはしごしようとしたものの、土曜日ということもありどこの店も満杯で、コンビニでお酒を買って私の家で飲もうということになったんだった。

きっとその後酔った勢いで………いや、待てよ。
沖田と私のことだ、きっと「なんか暑っちいなーちょっと俺脱ぐわ」「いいねぇ!私もー!」「おー男らしいな!がははは!」「がははは! …って、沖田もう寝てやがる!しょうがねぇな!」みたいな豪快なやり取りがあったに違いない。そして朝まで爆睡。きっとそうだ。そうに違いない。
二人してベッドに入ってたのはたまたまだ。むしろそうであってくれ。

「んな都合良いことあるかよ」
「うあああああ!おきたああ!!」

沖田が起きた(笑)とか、それどころじゃない。私は慌てて身体を隠した。
なんせ私は、素っ裸でベッドに腰掛けていたのだから。

「なにを今更、昨夜はあんなに大胆だったくせに」
「ちょ、昨夜って…!やっぱり…その…あの、私たち…」
「あぁ、セックスしたけど。覚えてねーの?」
「少しはオブラートに包んで!!」
「ナマエの中、最高だったぜ。ケツ叩く度ぎゅうぎゅう締め付けてくるしよ」
「やめろおおおお!!ああ!!できれば死にたい!!」
「総悟のおちんちん気持ちいい〜!ってよがってエロかったなぁ」
「うっそ!絶対言わないそんなこと!」
「まぁ、それは嘘だけど」
「嘘かよ!よかったけど!」

沖田とは友達で、それ以上でも以下でもない。それはきっと沖田も同じはず。
だって、ずっとそうだったじゃん。

「…こうするしかなかったんだよ」
「は?」

突然下がった声のトーンに今度はなんだと顔を上げると、沖田はきまり悪そうに目を伏せた。

「お前意外と真面目だから、一度寝た男と普通に友達できねぇだろ?」
「ま、まぁ・・」
「だからさ、」



「俺のことちゃんと男として見てよ」
「え・・・」


だめだ、頭がぐらぐらする。カーテンの隙間から入ってくる朝日も、しつこいウイスキーの香りも、聞き慣れた筈の沖田の声も、全部混ざり合って目が回りそう。

あぁ、だから私は朝が嫌いなんだ。






ヨシヒコ君(誰)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -