「お前らって付き合ってんの?」


彼ら二人を見た人は、決まってこう尋ねる。オレも最初見たときはそう思ったし、その勘違いを半年ほど続行していたという過去があったりする。


「はぁ、んなわけねぇだろ。なぁ?」

「うんうん。ありえないでしょ、私と幸男とか」


そんな他人の言葉を、二人は決まって笑い飛ばす。
このやり取りを今まで何度も繰り返してきたのだと思うと、面倒だからもう付き合ってるでよくない?と思うのだが、それはそれで違うのか。
さしずめ二人の関係というのも、小さい頃からの幼なじみが関係を進展させるタイミングを失って、友達以上恋人未満の宙ぶらりんな状態でやきもきしてるようなものなのだろう。

そう考えてたのは、オレが笠松とミョウジと知り合ったばかりの頃。しかし二人をよく知るようになって、二人の関係を間近で見るようになって、その印象がちょっとばかり変わった。


「まぁー付き合ってるって感じじゃないよな」

「森山くんもそう思うでしょ?」


確かに恋人同士には見えない、と思うようになったのだ。


「だってあの幸男が平気で喋れるんだよ。私のこと女の子と思ってないんだよ」

「うーん…」

「あ、もう幸男、こぼしてる」

「おー、わり」


横で黙々とドリアを食べていた笠松の上着を、紙ナプキンで拭いてあげるミョウジ。ずっとオレの方見て喋ってたのに、なんで気づいたんだ。
ドリンクバーの薄いコーヒーを飲みながら、あー染みになっちゃう、と上着をごしごしやるミョウジとそれを大人しく見つめる笠松の顔を交互に眺める。

上着の染みが薄くなって、再びドリアを口に運ぶ作業に戻る笠松と、オレとの会話を再開するミョウジ、という光景はもう見慣れたものだ。それにしてもこのコーヒーうっすいな。


「おい」


続いて突然左手を差し出した笠松に、オレは何のことかとミョウジを見る。すると、タバスコの瓶が鮮やかにもミョウジの手から笠松の手へと渡った。

ここまで見れば分かると思うが、この二人はどう考えたって、恋人同士なんかじゃない。


「さんきゅ」

ミョウジの方を一切見ずにタバスコを手渡す笠松。

「ん」

それを流れるように受け取るミョウジ。


そう、この二人はどう考えたって恋人同士なんかじゃない。
完全に夫婦なのだ。

お互いを信頼し切って気を許し合って、言葉を発っさずとも何でも分かり合える関係。
当の本人達は全く気づいてないみたいだけど。


「お前らさー、まずは自分の気持ち自覚するとっから始めたらいいんじゃない。オレが言うのもなんだけど」

「森山なに言ってんだよ。気持ちわりぃ」


ドリアの海老をこぼしながら笠松が言った。
二人が付き合うのは、まだ先のことになりそうだ。




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