すぐ隣にあるタオルケットの塊がもそ、と波打った。死んだように俯せになっていた良くんが、実に数時間ぶりに動き出したのだった。

「起きるの?」
「服、着る」

ぶっきらぼうに答える口調にはいつものような弱々しさとか気遣いとかが無くて、彼がいかに朝が弱いかが伺える。
枕に押しつけられていたせいで、柔らかそうな前髪には普段は無い分け目ができている。覗いたおでこから見えた眉は不機嫌そうに歪められ、彼の幼い顔にアンバランスだった。

「まだいいじゃん。もうちょっと寝てよう」

だってまだ眠そうだし。横になった私を跨いで床に落ちた洋服に手を伸ばす彼は、しきりに瞬きを繰り返している。

「だって朝ご飯作らなきゃ」
「えー」
「オムレツでいい?たしか卵がいっぱい余ってた」

私のほうなんかちらりとも見ずに淡々と話を進めるもんだから、なんだか腹が立った。私は良くんの腰から下を覆っていたタオルケットを勢いよく引っ張ると、それを床に放った。

「っ!!」
「あはは、なに今更。散々見てるのに」
「…ナマエちゃんのばか」

慌ててタオルを拾いあげてぐるぐる腰に巻き付けると、良くんは私を睨んだ。
それなりに長い付き合いなのに、ここまで羞恥心を持ち続けるっていうのもすごいことだ。こんなんでよくあんなことやこんなことできるな、と不思議に思ったこともあったが、本人曰く、暗ければ問題ないらしい。男心ってわからない。

さっそく服を着ようとする彼の邪魔をしたくて、後ろからぎゅっと抱き着いて、うなじに鼻を押し当てた。シャツ一枚を隔てて、堅い背中から体温が伝わってくる。
お腹に回した手をシャツの裾から差し入れて、薄く筋肉の付いたおへその辺りを撫でてみると、面白いくらいに肩を揺らしてのけ反るので、想像通りの反応に嬉しくなった。こういう可愛い反応をするからもっと虐めたくなるって、彼は自覚してるのだろうか。

「お腹かたいね」
「それやだ、くすぐったい」

シャツの中をもぞもぞする私の腕を掴んで、良くんがこっちを振り向いた。肩に顎を乗せるようにしていたので、吐息が感じられるほど顔が近くなる。
そのままどちらともなく唇が合わさって、さっきまでのじゃれた雰囲気とは一変、妙に熱っぽい空気が流れる。

軽く触れるだけのキスを繰り返しながら、良くんの手が私の首筋を撫でた。
このまま二回戦か、いや最後まではいかないか、さすがに。与えられる柔らかい刺激に身を委ねながら、ちょうどいい位置にある色素の薄い髪の毛を撫でた。


細い猫毛を指に絡めて弄っていると、突然良くんの手の動きが止まった。
どうしたのかと見上げると、その表情を確認する間もなく、彼が私の上に倒れ込んできた。細身に見えても、乗っかられるとけっこう重い。背中をぺちぺち叩いてみたけど反応はなく、退く気はないようだ。

「どうしたの。いきなり」
「なんか、」
「……」
「…だめな気がして」
「なにが?」
「僕、こんなことする為にナマエちゃんと付き合ってるわけじゃないのに」

耳のすぐ横から聞こえてくる声は、直接胸に訴えかけられたように響いてきた。

「一緒にいるだけで十分幸せなはずなのに、こういうことしたくなる自分が、嫌なんです」

幾分呼吸が乱れていて、彼が色々な物に堪えているのが伝わってきた。
それが私の為なのか、はたまた自分の信念なのかは知らないけれど。寝起きの彼は、普段見せない顔を見せてくれる、



彼の毎朝の不機嫌は、もしかして自己嫌悪によるものが大きかったのかもしれない。

好きな人とだったらセックスしたくなるのは当然だよ、とか、何か言おうにも、性欲の言い訳にしか聞こえないような台詞は今の彼にはそぐわない気がして私は口をつぐんだ。
代わりに、私はケチャップみたいに赤くなった彼の耳を撫でてそこに小さくキスをした。

プラトニックなんてものは、私には到底無理そうだ。
まして思春期の男の子である彼にとって、純愛を貫くなんて、卵を使わないでオムレツを作るくらい、無謀なことだと思うのだ。






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