私は、お菓子が嫌いだ。
世界中からお菓子がなくなってしまえばいいのにと思う。

「敦、そろそろ止めなよ」

隣でお菓子を食べ続ける彼を私が咎めても、袋と口をひっきりなしに往復する右手は止まらない。
ぽっかり空いた何かを埋めるように、彼はお菓子をひたすら口に運ぶ。こぼれた食べかすは山となり、空いた袋は小さなごみ箱を溢れさせた。

「もうおしまい」
「あー何すんの」

敦の手から袋を取り上げた。不満の声があがるけど、彼はそれを無理矢理取り返すなんてことはしない。それどころか、少し安心したような顔になるのだ。

「敦はお腹空いてるんじゃないよ。口が寂しいだけ」

人一倍無駄を摂取している敦には、決定的に足りない何かがある。

「口が?」
「そうだよ。口が寂しいの」
「なにそれ。変なの」

その足りない何かを、私が持っていればいいのにと思うときがある。私が埋めてあげられればいいのに、と。

「敦は淋しがりなんだ」
「そんなことねぇし」
「そんなことあるよ」
「…じゃあ、さびしくなくしてよ」

ぽつり、そう呟いた敦はごみ箱の中のパッケージを見ていた。ぐしゃぐしゃに丸まったクッキーの袋を見て、彼は今何を考えているのだろう。

「俺が、いつでもさびしくないようにして」

今までお菓子の袋に伸びていた手が私の背中に回り、お菓子を詰め込んでいた口は普段の彼らしくない言葉を紡いだ。

「ねぇナマエちん」

敦の声は、こんなに弱々しかっただろうか。お菓子が口に入ってないその声は消え入りそうに霞んで、甘い匂いの充満した部屋の空気に溶けていった。


私はお菓子が嫌いだ。
世界中からお菓子がなくなってしまえばいいと思う。そして敦が私から離れられなくなってしまえばいい。
結局のところ、一番淋しがりなのは私なのだ。





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