「玲央ちゃんは私の一番の友達だよ」とナマエちゃんは言った。
うん、私もその通りだと思う。
部活がオフの日に遊ぶとしたらナマエちゃん以外考えられないし、美味しいクレープ屋さんを見つけたら一番に誘う。
ぴったりくっつきながらおしゃべりとか、部屋で二人きりなんて今まで数え切れないほどあったし、端から見れば仲の良いただのカップルのようにじゃれ合ったりもした。
女子高の友達同士って、たぶんこんな感じなんじゃないかと勝手に予想してみたり。
そんなナマエちゃんは今、私の隣で最近始めた編み物にいそしんでいた。
放課後そのまま私の部屋に来たから服装は制服のまま、買ってきたばかりの毛糸の玉とじゃれあっている。そうやってると猫みたいで可愛いー、とか言ったら怒られちゃいそうだけど。
テーブルの上に置かれたマグカップに手を伸ばすと、飲むのに丁度良い温度に冷めたコーヒーが指先を温めた。お互い言葉は交わさないけど、ゆっくり時間が流れるこの感じ、落ち着く。
ソファの背もたれに寄り掛かり息をつくと、ふいにナマエちゃんがその沈黙を破った。
「玲央ちゃんさー何かあった?」
視線は相変わらず手元の毛糸玉に向かったまま。うーん、なんとも唐突な。
「なによ急に」
「なんか最近冷たい気がする」
「そんなことないわよ」
「私と話してても上の空だし」
マグカップをテーブルに置いてソファに座り直す。その際ナマエちゃんから離れるようにやや横にずれたのは、たぶん無意識だった。
「見てればわかるよ、友達だもん」
これから手袋になるであろう毛糸の塊を脇に置いて、ナマエちゃんがこっちに向き直った。膝小僧がズボンごしの私の脚と触れ合う。
「何かあったなら聞くよ。私、玲央ちゃんの力になりたいよ」
そう言ってナマエちゃんは更に距離を詰めてきた。短い制服のスカートが静電気で太ももにぴったりと張り付いている。
ごくり、と喉が鳴ったのが自分でもわかった。‥‥え、嘘でしょ。
邪念を振り切るためにすぐさま視線を上方修正すると、心配そうな表情のナマエちゃんとばっちり目が合った。
私の顔を覗き込むナマエちゃんは、潤んだ目できつく唇を結んでいる。その顔を見てたら胸の奥のほうがきゅっと締め付けられて、心臓から湧き出す血液の量はどんどん多くなった。
やべぇ、勃ちそう
‥‥いやいやいや。
だめでしょ。だめだって普通に考えて。
なに急にオトコになってんのよ私。
こんな油断し切って無防備な姿晒してる女の子に迫るなんて、聞いて呆れるわ、皆が。いや皆って誰よ。
「玲央ちゃん…」
黙ったままの私の肩に、ナマエちゃんの指がそっと触れた。
触れられたところに一気に神経が集中して、身体がぶわっと熱くなった。
久々の感覚に戸惑いながら、あれ、私って女の子イケたっけ。とか反芻する間もなく、気がついたらナマエちゃんのうなじをがっちり掴んで乱暴に口づけていた。
あーあ、ナマエちゃんの一番の友達ポジション、無くなっちゃった。自業自得ね。
うっすら瞼を開けると、ナマエちゃんの長い睫毛と真っ赤な頬が見えた。目尻にはうっすらと涙も浮かべている。
全然抵抗しないけど、この子どうゆうつもりなの?なんて自分のこと棚に上げていぶかしんだりして。
さて、困った。この後どうしましょうか。
130210