可愛いラッピングが施された包みを持って、私はテレビを見ている敦の隣に腰を下ろした。

「敦、これ」
「どしたの」
「今日バレンタインだから」
「すげぇこれ手作り?」
「そうだよ」
「ナマエちんいい子ー」

ぎゅうっと大きな身体に抱きしめられる。
苦しいよーという気持ちを込めてその大きな背中を叩いてみたけど、伝わらなかったみたいで余計力が込められてしまった。

「あつしー苦しいよー」
「知ってる」

知っててやってたのか。
私が身をよじると、背中を抱きしめる手がするすると後頭部まで移動して、噛み付くように唇を奪われた。

「っん…」
「ナマエ顔真っ赤」
「酸欠だよ、…たぶん」
「かーわいー」

敦の顔がまた近くなる。そのまま肩を押されて、ふかふかのソファに背中から倒れ込んだ。再び舌を絡めてくる敦に、私も首に手を回して応える。
そのとき二人の身体に挟まれたラッピングの袋がかさ、と音を立てた。

「…あ、忘れてた」

目を開けると、敦の視線はさっき渡したチョコレートへと注がれていた。
キスに夢中になって忘れてたってとこだろうか。あのお菓子大好きな敦が珍しい。

チョコの包みを見つめる敦はすごく食べたそうな顔。
でも私の濡れた唇を見て、また食べたそうな顔をした。
このまま続けるべきか、大好きなお菓子を食べるかで揺れているみたいだった。二つの大好物を目の前にした大きな子供はすごく困った顔をした。

「いいよ、先食べなよ」
「…ちょうどノってきたとこなのに」
「いいからいいから」

私が促すと、渋々チョコの包みを開け始めた。でも中身を見ると「トリュフだ」と笑って嬉しそう。よかったよかった。敦のこの顔が見たかったんだ。

「じゃあいただきます」
「どうぞ」

トリュフをひとつ摘んで、口の中に…私の口の中に押し込んだ。…え?
「私が食べても意味ないじゃん」と文句を言おうとしたら、間髪入れずにねじ込まれた敦の舌。
熱い口の中で溶かされたトリュフは歯の一本一本まで染み込んでいくような気がした。

「ごちそーさま」

私の唇をひと舐めして、満足したように笑った。耳にかけていた敦の髪がするりと落ちて、私の顔をくすぐる。

「…甘すぎたかな、トリュフ」
「そー?ちょーどいんじゃね?」

敦は私の手首にはめてあったヘアゴムを取ると、邪魔そうだった自分の髪を束ねた。

「おかわりいい?」

再び近づいてきた敦になす術などなく。暖かくなった頬に手を伸ばすとそれを合図に唇が降ってきた。
トリュフ無しでしたキスは、さっきよりも甘かった。




130123
0207加筆
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