「外に出よう」
綺麗なよく通る声が、空気を震わせた。
広い幽平さんの部屋に、心地好い余韻が残る。
ソファーに座ってのんびりしていた私は、コーヒーを淹れていた幽平さんに、顔を向けた。
「……それ、ドラマの台詞でしたっけ?」
「うん」
テレビから聞こえてきたものと、全く同じ声。何ヵ月か前のドラマだったと思ったけれど、彼は間違うこと無く、トーンや間を覚えているようだ。
「どうしたんですか?いきなり、そんな」
「ふと、思って」
上品なデザインのコーヒーカップに、優雅な動作でコーヒーを注ぐその姿に、暫し見惚れた。
そんな私には気づいた様子無く、幽平さんはコーヒーカップを静かに私の前に置いた。
「このあと、どう続いたか覚えてる?」
「ええと……」
テレビ画面の中の幽平さんが演じた男性は、ヒロインの、お屋敷に閉じこもっていたお嬢様の手を取る。
戸惑うお嬢様に優しく微笑みかけて、男性は言った。
「あの青い空の下で自由に踊ろうよ、でした?」
「正解。細かい部分は少し違うけど」
幽平さんは一口、熱いコーヒーを飲む。
カップを離したときには、役者の顔になっていた。
「ねえ、ルリさん」
コーヒーカップをローテーブルに置いた幽平さんは、私の手を掴み、背中に手を回して、私を立ち上がらせた。
「外に出よう」
「え?」
「あの青い空の下で、踊ろう。自由になろうよ」
ドラマの台詞。
あのあとの、ヒロインの行動はどうだったか。
必死で思いだそうとしていると、幽平さんは、すっと無表情になった。いつもの幽平さんに戻ったのだ。
「ルリさん自身の言葉で返して」
「……はい」
じっくり言葉を選ぶ。幽平さんは温かい眼差しで、私を待った。
「私たちには、青空は似合わないわ。私たちのような怪物には」
私の解答を聞いて、幽平さんの口元が、少しだけ緩んだ。
「上出来」
ほっとして、私は少し誇らしげに言った。
「私の言葉です」
「うん」
「だから幽平さんも、自分の言葉で言ってください」
私の反撃が意外だったのだろう。幽平さんは、ほんの少し目を見開いた。
それから、笑った――ように見えただけかも分からないけれど、笑った。
「ルリさん、外に、お茶しに行きませんか」
不器用なあなたの表現
(私にしか解らないんだ)