鹿遠寺家。
クリスマスが近いので、留学中の風が一時帰国していた。
余裕を持って早めに帰国してしまったため、例の「降雪機実験」を始めるには、まだ日がある。
それゆえ風は、ソファで長い足を組み、優雅に読書を楽しんでいた。
そこから一人分空けて、凪もまた、足をクロスして、ファッション雑誌を読んでいる。
紙面で微笑む男性モデル。彼らに負けず劣らず整った顔立ちの双子が、真剣な表情で紙を捲っていると、それこそ雑誌か何かの撮影のようだ。
風の瞳は、素早く紙の上を滑っている。しかし一方、凪の瞳は、雑誌を見たり兄を見たりと忙しなく動いていた。
先程から何度も、口を開いては閉じている。尋ねたいことがあるのだ。
しかし、久々に自宅へ帰って来て寛いでいる兄の邪魔をするのは、流石の凪でも気が引けた。
そうは言っても、このまま黙っているというのも、性に合わない。

(あー、くそっ)

腹を決め、凪は雑誌を閉じた。ぱさり、というその音にも風は興味を示さず、読書を続けている。その様子にまた少し躊躇ったが、今度こそ声を出す。

「なあ」
「なんだ」

本から目を離さないどころか、未だに文字を追い続けている風。これはいつものことなので、凪は言葉を続けた。

「結局のところ、お前、嵐のことどうなの?」

風はぴたりと動きを止め、少し置いて溜め息を吐き出した。それからゆっくりとした動きで栞を挟み、本を閉じる。

「……何がだ」
「いや、そのままの意味だけど」

やばい、怒らせたか。
一瞬、そう思った。が、そういえばこの男は、このつっけんどんな物言いが基本だったということを思いだし、返事を待つ。

「……まあ、安心はした。相変わらずで」
「だよなー。お前が帰って来たってだけで、機嫌良くなるし」

嵐は、風が帰って来るなり上機嫌になり、桐子を連れて出かけてしまった。

「あんたに服を買ってあげるわ!気にしないで、ちょっと早いクリスマスプレゼントよ!」

と、有無を言わさず、飛び出して行ったのだ。そのときのことを回想し、凪は苦笑を浮かべる。

「お前に、気を遣ったんだろうな。嵐の奴」
「ん?」
「長旅でお前が疲れてるだろうからさ、なるべく休ませようと思ったんだろ」
「……お前が居ると休まらないけどな」
「ははっ、悪かったな」

和やかに笑い合う双子。なんだかんだ言って、仲は良いのだ。

「根は優しいからな。あいつは」
「まあねえ。良い子だよ、嵐は」

俺の嫁には負けるけど、と付け足すのは忘れない。馬鹿、という笑い混じりの声が返ってくる。

「で?どうなんだよ。俺が訊きたいのはそういうことじゃ無いって、分かってるだろ?」
「まあ、な」

風は暫く、思案顔で宙を眺めた。凪も黙って、風を待った。

「……つくばねの」
「へ?」

風が呟いたのは、暗号のような言葉だった。謎の発言に、凪は素っ頓狂な声を上げる。

「うん、そうだな。これが相応しいだろう」
「は?おい、いや、何言って……」

戸惑う凪に、風は楽しそうに薄く笑った。

「自分で考えろ。もしくは調べろ」
「いや、それだけじゃ分からねえよ……」

抗議してみたが、風が一度言ったことを曲げないのは知っているので、凪はヒントを求めるのを早々に諦めた。

(……あとで桐子に訊いてみるか)

既に本を開き読み進める、どこか嬉しそうな兄の横顔を見ながら、弟はぼんやりと考えた。

つくばねの

(暗号?それとも、)
(愛言葉?)


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