これの続き

唐突にあの日の夢を見て、性懲りもなくまた情緒不安定に陥った。
こんな状態じゃあ学校にも行けないと思って、行く振りをして、サボった。小さい頃、みんなで遊んだ公園に行った。
いつもだったら、きっとここには来なかった。あの嫌な記憶が増幅されるだけだから。
でも、何故か、足が勝手にここに向いていた。
期待していたのかも知れない。誰かが来てくれる、という、淡い期待。
なんとなく、ただなんとなく、過ごした。ぼんやり、ブランコに座っていた。
たまに誰かが入って来たけれど、私もある程度町の人には顔が知れているから、何かあったのだろうと適当に解釈をしたようで、みんな近寄らずに通り過ぎて行った。
時間は、驚くほど早く過ぎた。時計は見なかったけれど、影が動いていくのを見て、分かった。
そろそろ学校、終わったかなあ。
事務所、行かなくちゃ。
考えるだけで、体は動こうとしない。
それでも、一日何もしていないという、一種の罪悪感のようなものに背中を押されて、携帯電話の電源を入れた。
特に、連絡は入っていなかった。急に、虚無感に襲われた。
誰も、来ない。
絶望にも似たその感覚を断ち切ろうと、また電源を落とそうと、親指を電源ボタンに伸ばした。
そのとき、携帯電話が震えだした。電話だ。
ディスプレイには、掛けてきた相手の名前と、一部の親しい人は顔写真が表示される。
ピースサインでにっこり笑う美少女。『岸桃華』という文字。

「――っ!」

そのまま電源ボタンを押した。通話が切れる。
全身の血液が凄い勢いで流れているようだ。身体中が熱くなって、心臓が大きな音を立てて拍動する。
何か、何か武器を出さなければ。全部壊さなければ、いけない。
そんな衝動と暫く戦っていたら、また、手の中で携帯電話が震えた。今度は画面も見ずに切った。
三度、震えた。切ろうとして開いたときに、ちらりと画面に目が行った。
ディスプレイに表示されている写真は、なかなか撮らせてくれなかったから、こっそり隠し撮りしたもの。つんとした、横顔。

「……恭助?」

呟いて、気づいたら、通話ボタンを押していた。
柔らかい声が、耳に流れ込んで来る。
体温が一気に落ち着いた気がした。
何処に居るのかと不安げに尋ねる彼に、弱音を一言吐いて、聞こえないかもしれないくらいの小さな声で、言った。

「たすけて」

電話を切り、ぱたり、携帯電話を閉じる。
目を閉じると、そよ風が頬を撫でた。彼の足音が、すぐ傍に近づいているような気がした。

グルーミーガール

(ハロー、ハロー)
(わたしはここだよ)


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