目の前の男は、任務中にも見せないような真剣な表情をして、私の右手を弄んでいた。
角度を変えて舐めるように眺めてみたり、指の腹をふにふにと押してみたり、自分の手と合わせてみたり、指を絡ませてみたり。
彼が体を動かすたびに、視界の端で鮮やかなオレンジがちらちらと揺れる。鮮やかすぎて、眼に痛い。

「縢」
「んー?」
「何をしているの?」

へらっ、と笑う。髪の色と同じくらい鮮やかな笑顔が眩しくて、やっぱり痛い。

「クニっちの手、綺麗だなーと思って」
「……何?」
「小さくて柔らかくて、指が細くて長くて」

私たち執行官は、潜在犯の気持ちが理解出来るから、こうして社会に貢献出来ている。しかし、この男の心理はいつもわからない。

「それが、何なの?」
「んー」

私の手を触り続けていた彼は顔を上げ、じっと私を見つめた。
いつも思うのだ。縢の瞳は深い海のようだ、と。水面は光を浴びて輝き、深部は暗く淀んでいる。

「こんな、綺麗な手がさ。人殺しに使われてるんだなって」
「……縢?」
「残念じゃない?なんか」
「……どうしたの?随分と感傷的ね」

ふふ、と、今度は悲しげに笑う。その様子は、消えてしまいそうに、儚い。

「でも、こうしないと、あたしたちは」
「分かってるって。生きていけないんだ、俺たちみたいな、社会に見捨てられた糞野郎は」
「そうよ。あたしたちは生きてる価値も無いような人間なんだから」
「あっはは、そこまで酷いこと言わなくてもいいっしょ」
「あなたも、結構酷いこと言ってるわよ」
「そうだねえ」

また、泣きそうに笑う。
ころころ表情を変えて、忙しい男だ。

「でも、やっぱり、一番大切なのは命だわ」
「うん」
「それが無きゃ、何も出来ない」
「そう。クニっちの手から温かさを感じることも出来ないね」
「ええ。それに、こんなことも出来ないわ」

絡ませた指を引き寄せ、勢いのまま、唇を合わせた。

でも僕は、赤く染まった君が好きだ

(いちばん)
(君らしいから、さ)


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