「あら」

杜若の花輪を手に、きょろきょろ周囲を見渡した小町が小さく言った。

「どうかしました?」
「ええ。一つ余分に作っちゃったわ」

困り顔で微笑む小町。その首には、手に持っているものと同じ花輪が掛かって居る。
俺と業平の首にも、同じ杜若。

「もう、業平様が際限無く摘むからいけないのよ」
「おやおや、人の所為にするのかい?」

何故かは分からないが、業平は昔話をしながら次々に杜若を摘んでいた。それを受け取った小町が、これまた次々に花輪を編んでいたら、どうも人数より一つ多く作ってしまったらしい。

「業平様、もう一つ如何かしら」
「是非受け取りたいところだが、これ以上色男が増したら大変だろう」
「寝言は寝てからおっしゃって」
「はは、相変わらず私にはどぎついな。君は」

いつものやり取り。淑やかな小町は、業平にだけは酷い暴言を吐く。……まあ、俺も別の意味で傷ついたりはするが。

「それでは、ねえ、康秀様は如何?」
「へ?」
「これ。もう一つ」

優しく笑う小町は、やっぱり美しい。
などと浸っていたら、その夢見心地はあっさりと打ち壊される。

「折角だから貰ったらどうだ。勿体ないし」

業平の声だ。にやつきやがって……。

「決まりね」
「え、あの」

嬉しそうに言って、少しだけ背伸びした小町が、それに合わせて屈んだ俺の首に花輪を掛けた。小町のものか花のものか、良い匂いがふわりと香った。
この二人にかかれば、俺の意向は基本的に無視だ。

「ふふ、今日は康秀様が一番豪奢ね」

しかし、この笑顔を見るとそんなことはどうでもよくなってしまう。惚れた弱みというやつだ。

「君はいつも地味だから、偶にはそう派手でもいいんじゃないか」
「またそうやって!」

業平の発言に、小町が眉を吊り上げ、後ろに居た業平に振り向いた。

「友人を馬鹿にするのは頂けないって、いつも」

かと思えば、小町はそこで急に言葉を切り、今度はくるりと俺を向いた。

「そうだわ、康秀様。私、ずっと貴男に言いたかったことが有るのよ」
「はい?」

ぱっ、と小町が俺の手を取った。突然のことにどうすればよいのか分からず、俺は戸惑うだけだ。小町の柔らかくひんやりとした手の感触を意識すると自然と頬が火照る。

「あのね」

小町の、透き通った蒼い瞳が俺を見つめる。一緒に旅を始めてから、毎日楽しそうにはしゃいでいた姿から一転して、ひどく真剣な表情だった。
眼が、離せない。

「こ、小町?」

胸が高鳴る。
緊張して、上ずった可笑しな声しか出ない。
業平がにやにやといやらしく笑っている。顔は見えないが、雰囲気で分かる。

「私と」

俺の手を握る小町の力が、強くなった。

「ずっと、友人で居て欲しいの!」
「え、あ……は?」
「ぶっ!」

ん……?
なんか、思っていたのと大分違う。
小町は変わらずきらきらした瞳で俺を見つめて居て、吹き出した業平はそのまま爆笑して居る。

「業平様には、先日告げたのよ。でも康秀様には、まだ言っていなかったから」

照れくさそうに笑う小町は可愛らしい……と、脳が現実逃避を始める。
いや、まあ全然、期待していた訳では無い。有り得ないことだし。でも、もしかしたら、とは。

「あの、康秀様?」
「え?」
「ご、ごめんなさい。迷惑だったかしら?」「いや、まさか!」

笑いを堪えて、震えながら業平が言った。

「ふふ……ほら、康秀、早く返事をしてやりなさい」

奴の態度は気に入らないが確かにそうだ。
無理矢理笑顔を作って、俺は言った。

「勿論ですよ!断る理由なんて有りません!」

小町の笑顔が一層輝く。言って良かったと思った。
笑い過ぎて涙を流している業平が口を開いた。哀れみの眼で俺を見ている。この野郎、全部分かってやがったな……。

「感動的だねえ、ズッ友宣言!」

そんなもんいらない

(……これはこれで)
(嬉しいけど)


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