全世界のお嬢さん、ごきげんよう。
貴女の騎士――ナイトと読みます――古市です。
さて、今日は何の日かご存知ですか?
ええ、そうです。俺の誕生日です。
それなのに、俺の周囲の人間ときたら。

「え?お前、誕生日とかあったの?」

男鹿の台詞がこれだ。無かったら、俺、今、ここに立って居ませんけど?涙流してませんけど?

「今日っスか?ポッキーの日っスね!」
「私は……プリッツ派」

パー澤さん、もとい、花澤さんと谷村さんはこう言った。
まあね、普通に生きてる人にとってはね、ポッキーの日もしくはプリッツの日、もしくはまた何か違う棒状のものの日。それだけでしか無いだろう。

「あれだ。きりたんぽの日だ」
「頭に似てるな。きりたんぽ」
「表出ろ神崎」

姫川先輩(と、ついでの神崎先輩)。
知らなかったー。今日ってきりたんぽの日だったんだー。でも、俺の求めてた答えじゃ無いなー。
嗚呼……俺の誕生日を覚えている人間など、居ないのか。
俺の誕生日を知っている人間など、居ないのか。
俺がこの世に生を受けたことを、祝ってくれる人間など居ないのか――。
流石にちょっとへこんで、机に突っ伏した。今日一日頑張れる気がしない。

「ねえ」
「はい……?」

誰かに呼ばれて、少しだけ顔を上げる。
目の前には、ポッキーが一袋。
それを眼で辿っていく。袋を差し出しているのは、綺麗に塗られた赤い爪。白い特攻服に落ちる赤い髪。

「……寧々さん?」
「誰に見えるの?」

呆れたように笑い、寧々さんはポッキーを俺の机に置いた。

「何スか?」
「ポッキーだけど」

身体を起こし、袋を手に取り、前に立つ寧々さんを見上げる。寧々さんが小首を傾げると、ウェーブの掛かった髪が揺れた。

「いや、そうじゃなくて。なんで」
「誕生日なんでしょ?」
「……は」
「あげるわ。おめでと」

言うやいなや、寧々さんは後ろ手に手を振り、颯爽と去って行った。
なんだよ、あれ。手際が鮮やかすぎる。
こんなの、俺。

「惚れちゃうだろ……」

たった一つの贈り物

(これで、今日も幸せだ)

2012.1111 HappyBirthday


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