鏡の中の自分を見つめてみた。
この髪も随分と伸びたものだと、リコは毛先に軽く触れた。ショートカットだった頃が懐かしい。今では束ねられる長さだ。
ふと思い立って、リコは机の抽き出しから、細身の赤いリボンを取り出した。友達の誕生日プレゼントをラッピングしたときの余り物だ。
リボンがちょうどよい長さであるのを確かめ、それで髪を束ねてみる。
鏡を見て、少し色が派手過ぎたかと苦笑し、明日日曜日の練習にはこれで顔を出そうと決めた。

さて、早速日曜日。リコは決めていた通り、赤いリボンと共に登校した。
部員たちの反応は、それぞれであった。

「おー。だいぶ印象変わるもんだな」
「いいと思うよ。女の子らしくて」

真っ先に見つけてくれた日向と伊月、それを始めとした二年生諸君は、様々に褒めてくれた。

「似合いますね」
「あ!何か違うと思ったら……」

黒子は薄く笑み、火神はどうやら気づいていなかったらしく、一年トリオに囁かれていた。
ここまでの流れは順調。リコは上機嫌で、午前の練習はほんの少しだけ軽くなった。問題は午後であった。
リコが、このささやかなお洒落を一番見せたかった相手は、用事があって、これから来るのだ。
リコは人知れず、胸を高鳴らせていた。

「悪い、遅れた!」

来た。
リコは、たたっと軽快な足音を立てて駆け寄る。

「鉄平!」
「お、リコー。どうした?やけに元気だな」

にっこり笑う木吉。そこから先、言葉は続かない。
そこで、リコははにかんだ笑顔のまま凍りついた。
更にその後方で、様子を見ながら、誠凛バスケ部一同は溜め息を吐いた。

「……それだけ?」
「え、それ以外に何かあるのか?遅れることは伝えてたと思ったんだが」

首を傾げて考え込む木吉にリコは、最終手段を取ることにした。自分から訊く、という禁じ手である。

「私、どこか変わったところ、無い?」
「リコの、変わったところ……あ!」

来た。
今度はバスケ部一同が、心の内で呟いた。
リコは期待に胸を弾ませて次の言葉を待った。

「そのセーター、新しいだろ?」
「……ばかっ!」

いきなりの暴言に、何が起こったのか分からない鈍感男は、頭にクエスチョンマークを浮かべて、立ち去るリコの背中を眺める。
その背中には、赤いリボンが揺れている。
日向の、馬鹿野郎、という呟きは、横に居た伊月の耳にしか届かなかった。

ボンじゃだめかな

(あなたの小指と)
(結ばれるのは)


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