青空には千切れた雲が散らばっていて、太陽が優しく照っている。初夏の爽やかな風が前髪を揺らした。
女の子は待たせちゃダメっスよ!というモデル君の一言で、待ち合わせ時間の十分前には、着くようにしていた。
服装も、何故かモデル君に決められた。少しはお洒落した方がいいっス!と言いつつも、白のTシャツに青のチェックのワイシャツを羽織らせ、派手すぎないコーディネート。その辺りのセンスは流石だと思う。

「テツ君!」

待ち合わせ相手――桃井さんが駆けて来た。

「ごめんね!待った?」
「いえ、さっき着いたところです」

決まり文句だ、と楽しそうに笑う桃井さん。
僕はというと、そんなベタな言葉を口にしてしまったことに気づかないほど、思考が停止していた。
理由は、目の前でくすくす笑う桃井さんにあった。
胸元が大きく開いた服に、制服よりも短いスカート。それらから伸びる白い手足が眩しかった。

「……テツ君?」

ぼんやり見惚れていると、桃井さんが顔を覗き込んできた。
はっと我に返り、言葉を紡ぐ。こういうとき、自分が表情の変わらない人間で良かったと考える。

「その服、似合いますね」
「えっ、本当?嬉しい、ありがとう!」

頬を染め、笑う。桃井さんの笑顔はまるで花が開くようだと、いつも思う。

「テツ君も似合うよ。なんだかいつもと違う雰囲気だね」
「そうですか?」

この人はどうやら、本当に僕のことを見てくれているようだ。

「黄瀬君が選んでくれたんですけど」
「きーちゃんが?うん、やっぱり分かってるなあ」
「何をですか?」
「テツ君の、一番格好良い見せ方」

そうなのだろうか。桃井さんが言うなら、そうなのかもしれない。

「そろそろ、行きましょうか」
「あ、ごめんね、ちょっと待って。紐が解けちゃったみたい」

桃井さんは、ローヒールの――多分、僕の身長に気を遣って――サンダルを履いていた。紐を足首で巻いて固定するようだが、成程、左足の紐が解けている。

「大丈夫ですか?焦らないで、しっかり結んでください」
「うん、ありがとう」

桃井さんが屈んだ。
すると。
必然的に、開いた胸元が更に大きく開く。
必然的に、僕の目はそこに引き付けられる。
何を青峰君みたいなことをしているのだ、と視線を逸らそうとしたが、叶わなかった。
というか、桃井さん。スカートも、それ、短すぎると思う。屈むと、かなり、なんというか、ギリギリだ。

「よしっ」
「!」
「これで大丈夫!待たせてごめんね、テツ君」
「い、いえ」
「じゃあ、行こっか!」

楽しそうに、桃井さんが僕の前を歩き出した。
今日の桃井さんはポニーテールで、白いうなじがむき出しになっている。
女性が和服に合わせて髪を上げたときのうなじが一番魅力的だ、と話していたのは赤司君だっただろうか。今初めて、それを理解出来た気がする。
桃井さんが一歩踏み出すたび、スカートの裾がふわりと揺れる。合わせて僕の心臓も跳ねる。
桃井さんは一体、どういう意図で、こんな服装をして来たのだろうか。
少し無防備すぎる。僕を信頼して、のことかもしれないけれど。
僕だって男で、聖人じゃないのに。

エセ紳士

(神様、どうか今日一日)
(獣が出ませんように)

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リクエストと言いますか、アンケートに「紳士な黒子がポーカーフェイスの下でドキムラしてるといい」って書き込みが有り、何それ美味い!ってなったので、黒桃書かせていただきました。
ネタ提供、本当にありがとうございました!


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