さつきが風邪を引いた。
と、おばさんが知らせに来た。
はあ、そうですか、と曖昧に返事をしていると、おばさんは急に困ったような顔をした。
なんでも、どうしても外せない用事があるため、俺に様子を看ていてほしい、ということらしい。
おばさんが訪ねて来たときから、そんなことではないかと思っていた。昔からそうだ、どちらかが風邪を引けば、もう片方は様子を看に行く。
おばさんに連れられて、さつきの家に行く。
俺が家に入ってすぐ、おばさんは出かけて行った。何度も頭を下げながら。
一つ溜め息を吐いて、さつきの部屋へ向かう。
ノックをして、返事を待たずにドアノブを回した。

「生きてるかー」
「大、ちゃん?」

ベッドに寝ているさつきが俺を見上げた。
とろん、とした目。赤く染まった頬。苦しそうに繰り返す、短い呼吸。
ざわりと、何かが掻き立てられるような気がした。

「おばさん、用事あって出かけたから」
「うん……。ありがと」

口元だけ、ふ、と微笑む。

「薬、飲んだか」
「ううん、ご飯も、食べてないの」

飯。しまった。俺は料理はからっきしである(さつき程じゃないけど)。
俺の表情で言いたいことを理解したのか、さつきは目を細めた。

「お母さん、お粥作ってってくれた」
「そうか。じゃ、持って来る」
「うん、少しでいいよ」

台所へ行き、さつきの言う少し、がどのくらいか分からなかったが、とりあえず茶碗の半分くらいまで粥を盛り、れんげを差す。粥は作りたてのようで、まだ熱かった。
部屋に戻ると、さつきは目を閉じていた。相当苦しいのだろう。
ゆっくりと目を開き、小さく呟く。

「ありがと」
「起きられるか?」
「ん、ちょっと、辛い」

どうしたものか、と、ベッドの横に座り込む。さつきが顔をこちらへ向けた。

「食べさせて」
「……は?」
「大ちゃんが、冷まして、食べさせて」

何を馬鹿なことを、と言いかけたが、あまりにも真っ直ぐ見つめてくるものだから、何も言えなかった。
少量をれんげで掬い、申し訳程度に息を吹きかけ、口元へ運ぶ。
さつきは小さな唇で、それを口内へ流し込んだ。

「ん、美味しい」
「……熱くなかったか」
「ちょっと熱いかな」

悪戯っぽく笑うさつきの、冷却シートが貼られた額を軽く小突き、また粥を掬った。
盛ってきた分は完食したので、安心した。食欲はそれなりにあるようだ。
もういらないと首を振るので、風邪薬と水を持って来てやった。それは流石に起き上がって飲んだ。
コップをサイドテーブルに置き、鼻まで布団に埋もれたさつきに話しかける。

「あとは寝てろ。俺は家に戻るから」
「え、」

帰っちゃうの?、と、さつきは潤んだ瞳で上目遣いに俺を見た。かと思うと、長い睫毛を伏せて、言う。

「あのね、手、繋いでて欲しいの。私が眠るまで。……だめ?」

不安そうな顔、声。
しょうがねえな、と手を握ってやると、嬉しそうに握り返してきた。いつもは冷たいさつきの手が、ひどく熱かった。
さつきはすぐに、寝息を立て始めた。これなら治るのは早いだろう。
何故かは分からないが、今日さつきの顔を見てから、鼓動がやけに速い。
それに今日のさつきは、いつもと違った。やたらと、積極的で。
気づいたら、さつきの細く白い指を、自分の唇に当てていた。キス、である。
我に返り、慌ててさつきの手を離す。目を覚ます気配は無い。
はあ、とまた溜め息を吐いて、起こさないように部屋を出た。

熱に浮かされ

(どうかしてるんだ)
(俺もあいつも)

----------------------
長い!(笑)
リクエストの「風邪を引いた桃井ちゃんを看病する青峰」でした!
甘える桃井ちゃんにドキドキ、とのことでしたが……ドキドキしてます?(笑)
リクエストくださった方、ありがとうございました!
こんなものでよろしかったでしょうか……?


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -