テツ君の身体に、あざを見つけた。
どうしたの、と訊くと、一瞬の間のあと、笑み。

「なんでもありません。転んだんです」

ああ、無理してるな、と思った。いつもの笑顔じゃ、無かった。
でも多分、訊いても教えてくれないだろうし、言いたくないなら無理に訊き出す必要も無いから、気をつけてね、と囁いた。
練習が終わって帰る時間になって、テツ君が居ないことに気がついた。私が見失うなんて。
皆は着替えなくてはいけないから、私が捜すよと一言吐いて、駆け出した。
第三体育館から明かりが漏れているのが見えた。
そっ、と覗くと、愛しの彼の小さな背中。
そして彼の目の前に立つ、三人の男子。確か、二軍の部員だ。

「まだ部活来てんの?」

ねちねちした言い方。

「シュートもろくに決められねえくせして」
「なんでお前みたいなのが一軍に居るんだよ?」
「ったく、赤司の眼も疑うよなあ」

はは、と下卑た笑い。
合点がいった。
そっか、この人たち、テツ君に暴力振るったんだ。言葉でも、身体でも。
僻んで、妬んで。私は覚悟を決めた。
いち、走る。
に、立ちはだかる。
さん、思いっきり蹴ってやる。

「桃井……!」

脛を押さえてしゃがむ男子を心の底から見下した。
男子三人の鋭い視線が思っていたより怖くて、手が震えたけど、強く拳を握り締めた。

「こんなこと、してる暇あるなら、練習したら?」

声も震えそうだけど、こらえて。

「テツ君は、あなたたちなんか比べものにならないくらい練習してたけど」

男子は何も言わない。
あとは、とどめ。

「赤司君のこと馬鹿にしてたって、ちゃんと本人に伝えておくから」

蒼白になった男子は、無様に体育館から出ていった。
その瞬間、私の身体は立っていることが出来なくなって、崩れ堕ちた。
テツ君が支えてくれて、私の顔を覗き込む。
ひどく慌てた顔。

「も、桃井さん?大丈夫ですか?いや、その前に、どうして……」

驚いているテツ君も可愛いなあ、と思ったら、勝手に涙が出て来た。テツ君が更に焦った。

「え?え?ど、どこか怪我しましたか?」
「っ、ううん、違うの、こわ、怖くて、本当は」

わー、私、格好悪い。自己嫌悪に陥っていると、不意に温かいものに包まれた。
テツ君が、私を、抱き締めている。
声は出ないけど、心臓は飛び出しそうだった。

「ありがとうございます、桃井さん」

ぽんぽん、優しく背中を叩かれて、凄く幸せで。
もう少しこのままで居たかったから、泣き真似をしておいた。

やさしさを聴きたくて

(あなたを助けたくて)
(あなたを守りたくて)


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