これの続きです

リコの口が「す」になった。
今だ、と俺はストローをくわえ、思いきり吸う。
ずずーっ、と大きな音がして、リコの普段よりもずっと小さい声は見事に掻き消された。
唖然とするリコ。
俺は何事も無かったかのように、軽く言う。

「あ、悪い、リコ。何か言った?」

リコの目が潤んだ。
やばい、と慌てて呼びかける。

「おーい、リコ?」
「……なんでもない」

俯いたまま、リコは鞄を持って立ち上がった、
何か、何か言わなければ。

「ポテトは?」

おいおい、そうじゃねえだろ、俺。
ちろり、と俺を一瞥して、リコは一言。

「あげるわ」

そのまま早足で出て行ってしまった。

「……やりすぎたかなあ」

ハンバーガーを頬張りながら、俺は呟く。
自分で考えた上での行動とは言え、やはり。
好きな人が悲しむ姿を見て喜ぶ奴なんて居ないのだ。
それでもこうして誤魔化し続けているのには、勿論理由がある。
俺たちバスケ部の良いところは、部員全員に繋がりがあるということだ、と俺は勝手に思っている。しかし俺とリコが恋仲になることによって、一部分の繋がりが強くなると、それ以外が脆くなってしまうのではないか、という懸念があるのだ。
それより何より。

「……怖いんだよなあ。俺が」

今の関係が壊れるのが、どうしてか、怖い。
中身を無くした包み紙をぐしゃぐしゃに丸めて、席を立とうとしたそのとき。

「あれ、木吉先輩?」

入り口から、二つの見慣れた姿が入ってきた。

「火神、黒子」

笑顔で手を振ると、二人は顔を見合わせた。
それから火神が焦ったような顔で、俺のもとへ駆けてくる。

「さっき、カントクと擦れ違ったんスけど……泣いてるように見えたんスけど」
「え」

俺の様子がおかしいことに気づいたのだろう、黒子が俺を真っ直ぐ見つめて、はっきり言った。

「追いかけてください、先輩」

言われなくても分かっている。
リコがそうしたように、慌てて鞄を掴み、ポテトを火神に押しつけ、俺は走りだした。



(でも、もう決めた)
(受けとめるよ、君の言葉)


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