ある日の昼休み、私は幼なじみを探して校内を走り回っていた。
何かと忙しい主将の赤司君に頼まれて、今週末の遠征の要項をまとめたプリントを、レギュラー陣に渡して回っているのだ。
けれど大ちゃんだけが見つからない。

(もうっ……。何やってるのよ、大ちゃん!)

空腹によって増した苛立ちを鎮めようと、私はつい先程の出来事を思い出す。
大ちゃんを探しに来る前にテツ君のところへ行った。
教室を覗き込んだ私はすぐにテツ君の姿を見つけて、近づいて声をかけた。
振り向いたテツ君は驚いたような顔をしていて、でも箸を置いてプリントを受け取った。それからふんわり笑った。

「凄いですね、桃井さん。ボクのことを見つけられるなんて」

恥ずかしくなってしまった私は、そうかな、とはぐらかした。テツ君は、はい、と言って、また笑った。

「嬉しいです」

そんな風に言ってもらえて嬉しいのは私の方だよ!
……とは言えなかったけれど、私はそれだけで一日幸せに過ごせる。
小走りをスキップに変えた私は、気づけば屋上へと続く階段に来ていた。
大ちゃんはよく屋上で寝ている。とはいえ、昨日の夜雨が降って濡れているはずだから、人は居ないだろうが。一応、である。

「――で――」

戸に手を掛けた瞬間、女の子の声が聞こえた。数人でお弁当、という雰囲気ではない。

「――だろ――」

それから、聞き覚えのある男子の声。大ちゃんだ。
私は音を立てないように、少しだけ戸を開いた。
隣のクラスの女子と、大ちゃんが向かい合って、何かを話している。

「私、青峰君のこと、好きなの……!」

どきり、と心臓が跳ねた。悪戯が見つかったときのような、そんな跳ね方。
そのまま鼓動が加速して、たまらず私はそっと戸を閉め、わけもわからず階段を駆け降りた。

(何……!?)

自分でもよく分からなかった。何故、こんな気持ちになっているのか。
こんな、まるで。

(嫉妬してる、みたいな)

違う、違う、と頭を振る。

(私が好きなのはテツ君、テツ君が好き、で)

大ちゃんは、ただの幼なじみで。
だから、特別な感情なんて抱くはずがないのだ。

(――たぶん)

ぐらり、

(揺れた恋心)


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